
長期化で焦点が移行
2023年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃を受けた戦闘開始以降、パレスチナ自治区ガザは欧米主要メディアの中心的テーマとなってきた。
欧米紙はどこも、破壊された住宅や避難民の証言を大きく取り上げ、「人道的大惨事が進行している」と伝えた。がれきの下の家族を捜す市民の姿や、食料支援に群がる子供、医療体制の逼迫(ひっぱく)を画像を多用しながら克明に報じ、戦争の悲惨さを読者に強く印象付けようとしてきた。
しかし、時間の経過とともに報道の重心は少しずつ移っていく。24年以降、停戦交渉の行方や米政権の対応、中東諸国の外交戦略を分析する記事が目立つようになっていく。死傷者数は引き続き報じられるが、紛争が長期化する中で、個々の市民の具体的な物語は相対的に減少、報道の焦点は政治的な駆け引きへと移行してきた。
英紙ガーディアンは26年2月、ガザで死亡したジャーナリストの数が記録的水準に達したと報じた。現地の報道環境の悪化を伝えるものであり、衝撃的ではあるが、構造的な検証には至っていない。
内部文書で指針示す
さらに、報道の文言の使用を巡る議論も浮上した。
24年4月、米ニュースサイト「インターセプト」が入手した米紙ニューヨーク・タイムズの内部文書によれば、イスラエルとハマスの衝突を報じる際の文言の使用について23年11月に記者に指針を示していた。
それによると、①「ジェノサイド(集団殺害)」や「民族浄化」といった語の使用を制限する②「占領地」という表現を避ける③「パレスチナ」という文言の使用を極めて限定的な場合以外は避ける―などが指針として挙げられていた。
「難民キャンプ」という文言の使用についても使わないよう検討することが指示されていたという。
どのような文言を使用するかは、戦争の伝え方、中立性の在り方にも大きな影響を及ぼすものであり、報道の在り方が問われる難しい問題だ。
この指針が公開されたことで、文言の制限によって「事実が曖昧化されるのではないか」という議論が高まったという。
イスラム系ニュースサイト「ハラール・タイムズ」によると、25年1月、米国の宗教系平和団体「アメリカン・フレンズ・サービス・コミッティー(AFSC)」が、ニューヨーク・タイムズに全面広告を掲載する計画を進めていたが、文中でイスラエルによる攻撃を「ジェノサイド」と表現していたことから、掲載が拒否されたという。
これについてニューヨーク・タイムズは内部文書で、「事実の正確性と法的基準への準拠を重視し、広く適用されている定義に従う」と指摘していたという。
この対応を受け、AFSCは「ガザでの出来事が国際法上のジェノサイドに該当すると信じるし、この文言を広告に載せる権利がある」と主張。タイムズ側の修正要求に応じることはできないとして掲載を取り下げた。
薄れゆく読者の反応
また米紙ワシントン・ポストは25年秋、動画共有アプリ上での関連投稿の傾向を分析し、若年層の間で主流メディアとは異なる情報空間が形成されていると報じた。紙面上の論調が変化する一方で、ネットでは依然として強い感情を伴う情報が拡散されていたという。
戦争が長引けば、報道する側の「疲労」は避けられないだろう。新たな展開がなければ、1面トップは別の話題に譲られる。被害状況などは数字としては更新されるが、読者の反応も次第に薄れていく。これはガザに限らず、ウクライナなど長期紛争全般に見られる現象だ。
これらガザ報道の経緯は、戦場の現実だけでなく、メディアの現実をも映し出している。何が報じられているかだけでなく、何が報じられていないかにも目を向ける必要がある。
(本田隆文)






