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サウジの直線型巨大都市「LINE」 構想倒れの危機を伝える英紙

資金不足と設計変更

 サウジアラビアのムハンマド皇太子が掲げる脱石油プロジェクト「ビジョン2030」の象徴、未来都市「NEOM」計画が重大な局面を迎えている。かつて「人類の未来を再定義する」と豪語したこの1兆5000億㌦規模の計画は現在、資金不足と設計変更、優先順位の再検討という試練に立たされている。

 サウジ政府は現在、かつてない「財政の引き締め」を余儀なくされている。エネルギーニュース専門サイト、オイルプライス・コムが2024年11月に報じたところによると、原油価格の低迷と、34年国際サッカー連盟(FIFA)ワールドカップ(W杯)開催に向けたスタジアム建設や、30年のリヤド万博の準備など、サウジ国内の大規模プロジェクトへの資金転用により、NEOMへの資金投入が困難になっている。

 特に米CNBCが指摘するように、サウジの優先順位は「物理的な巨大建造物」から「人工知能(AI)など実利的な観光インフラ」へとシフトしつつある。サウジ政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)の資金も無限ではなく、収益性の低い巨大プロジェクトよりも、即効性のある経済効果を求めて投資先を厳選するフェーズに入ったようだ。

設計に物理的な無理

 NEOMの目玉である直線型巨大都市「LINE」は、最も深刻な計画変更を迫られている。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の分析によれば、当初の「全長170㌔、居住者900万人」という構想は、もはや現実味を失っている。

 ニュースサイト、ミドルイースト・アイ(MEE)(25年11月13日)によると、サウジ当局はコンサルタントに対し、LINEのフィージビリティー(実行可能性)を抜本的に見直すよう命じたという。最新の予測では、30年までに完成するのはわずか2.4~5㌔程度にとどまるとされており、これは当初計画の3%にも満たない。

 LINEが直面しているのは資金難だけではない。FTの分析によれば、高さ500㍍のミラーガラスで覆われた壁を170㌔にわたって建設するという設計には、物理的な無理がある。

 まず、熱の問題。巨大なミラーが日光を反射することで周辺の砂漠や内部の微気候にどのような悪影響を与えるかが解明されていない。

 また、直線状であるため、移動効率が極めて悪く、当初計画された「5分以内にすべてのサービスにアクセス可能」という目標は、都市の規模が縮小されたことで皮肉にも一部達成される形となったが、大規模な都市機能としては欠陥が指摘されている。

 土地を追われる先住民の問題も影を落としている。MEEなどが報じている通り、立ち退きに抵抗した住民への弾圧は、欧米の投資家や建設コンサルタントを躊躇(ちゅうちょ)させる要因となっている。「未来のユートピア」をうたいながら、その建設プロセスが旧態依然とした権威主義的手法に基づいているという矛盾は、国際的な批判を受けている。

現実的な特区に変貌

 現在、NEOMは「中止」こそされていないものの、その姿は当初のSF的なイメージから「現実的な観光・経済特区」へと変貌を遂げつつある。

 NEOM内の高級ヨットリゾート「シンダラ島」など、早期に収益化が見込めるプロジェクトに資金が集中。また、NEOMの山岳リゾート「トロジェナ」で開催される冬季アジア競技大会は29年に迫っており、LINEを犠牲にしてでも建設が急がれている。

 かつて170㌔の鏡の壁として構想されたLINEは、おそらく数㌔の非常に高価な「ショールーム都市」となる可能性が高い。NEOMは、サウジの石油依存脱却への焦燥感が生み出した巨大な「蜃気楼(しんきろう)」に終わるのかもしれない。

(本田隆文)

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