
ナイーブな「口実論」
第2次トランプ米政権発足から20日で1年を迎えた。
各紙それぞれに一年の総括をしたが、総じてトランプ第2次政権に辛辣(しんらつ)な評価が続いた。
朝日は18日付社説「大国の秩序破壊 許さぬ連携を」で、「冷戦後の秩序の守り手だった米国が、国際法、国家の主権、価値観を共有する同盟関係などをないがしろにしはじめた」とし「『法の支配』から『力の支配』に世界を塗り替えようとしている。行き着く先は、軍事力で勝る大国が仕切る弱肉強食の無秩序だ。そんな愚行を許してはならない」といきり立つ。毎日や日経もほぼ同様の論調だ。いかにも平和憲法を後生大事にし、その擁護者たらんと胸を張る新聞らしい。
朝日がとりわけ強調するのがベネズエラ問題だ。
同社説は続けて「ベネズエラへの軍事行動はとりわけ深刻だ。主権国家に踏み込み、大統領を拘束し、その国を『米国が運営する』と言明する。国際法の根幹である主権の尊重を踏みにじる行為にほかならない」と断罪。その上で「中ロ両大国による同様のふるまいを正当化する口実を与えかねない」と警告した。
だが、この口実論はナイーブ過ぎる。中国が台湾侵攻を抑制しているのは、国際法を順守しているからではなく、侵攻が成功するという確信が持てないだけだ。トランプ大統領が「マドゥロ拉致」に踏み切ろうがそうでなかろうが関係は皆無で、勝利できると踏めばやるのが中国だ。ロシアのウクライナ侵攻も、プーチン大統領がウクライナ軍を短期間で駆逐できると誤算しただけの話だ。
首相の背を押す産経
こうしたトランプ氏の横暴に異議を唱えて正義の旗を振り、正論を声高に主張する新聞が多い中、産経だけは異色の社説を張った。
6日付主張「ベネズエラ攻撃 米は事態の安定化を急げ」で、「マドゥロ政権と中露が接近し、とりわけ中国はベネズエラの油田に多額の投資をしてきた。放置すればベネズエラは中露の思惑のもと反米軍事拠点になりかねなかった。マドゥロ氏排除には、ベネズエラを冷戦期のような『第2のキューバ』にさせない意味合いがあろう」と肯定的評価を下し、「高市早苗首相が唯一の同盟国である米国の今回の行動に対し、その是非に直接言及せず、『ベネズエラにおける民主主義の回復および情勢の安定化に向けた外交努力を進めていく』と発信したのは妥当である」と総括したのだ。
国際法に照らした是非論からすれば、今回のベネズエラ攻撃が「非」であることに間違いはないのかもしれない。だが、政治というのは結果をどうたたき出すかが問われる世界だ。いくら動機が正しく正論の大道を歩んでも、好ましい実績を積み上げなければ誰も政治家として評価されることはない。
その意味で政治家は、言いたいことをすぐ口に出すお子ちゃまであっては務まらない生業(なりわい)だ。たとえ腹の中は憤りの炎で燃え盛っていても、口から煙を出してはならないのが政治家だ。
現実をしっかり見据えた上で、理想とする世界にどう結んでいくのか深謀遠慮しながら事を進めていってこそ、道は拓(ひら)かれていく。その意味で産経は帝王学を行く高市首相の背を押す社論を張ったことになる。
中露牽制へ米不可欠
いずれにしても米国が「西半球」を重視し軍事的敷居もまたぐなら、核保有国の中露がアジアや欧州を含む「東半球」で大胆な軍事行動に出る可能性が懸念される。こうした中、どう米国を巻き込む形でインド太平洋地域の安全保障を担保するかが、2月にも決まる次期政権の最大課題だ。同地域で核保有国の中露パワーは侮り難く、これを牽制(けんせい)するには米国をおいて他にはない。その意味で米国はわが国にとってあった方がいい同盟国ではなく、なくてはならぬ唯一の大国なのだ。
(池永達夫)






