
誰が当選でも親中派
香港議会となる立法会(90議席)の選挙が実施され、親中派が全議席を独占した。立法会が親中派一色に染まったのは1997年の中国返還後初めてとなる。
12日付朝日社説は「7日の立法会選挙では、すでに21年の前回選挙で、全90議席のうち市民の一般投票で選ぶ枠をわずか20に抑えたうえ、民主派が立候補できないよう排除し(中略)前回以上に非民主的な選挙となった」と批判した。
一方、産経は11日付主張でそもそも「選挙の体をなしていない」と手厳しい。「選挙とは、有権者が多様な政見をもつ候補者から自由に最適と思う人物を選ぶ仕組みだ」というのだ。
立候補者は香港政府の事前審査で「愛国者」と認められる必要があった。市民の基本的人権にこだわったり言論や集会の自由を叫ぶ人々は、香港政府から欧米の息のかかった反体制分子と見なされる。香港の背後で糸を引く中国とすれば、誰が当選しても親中派という出来レースだったのが今回の立法会の選挙の実態だった。その意味では、あらかじめ立候補者を香港政府や中国に都合のいい人物だけスクリーニングしてしまうのだから、朝日の「非民主的選挙」より産経の「選挙の体なさず」との指摘が腑(ふ)に落ちる。
選挙はアリバイ作り
なお今回の立法会選挙を公正とは言い難い、かなり無理のある形で強行したのは、選挙という通過儀礼を経ることで香港と国際社会に対し「民主的議会」としてのアリバイを作る必要があったからだ。
鄧小平(とうしょうへい)の改革開放路線で、中国は「世界の工場」といわれるほどダイナミックな変化を遂げたが、香港の役割は計り知れないものがあった。中国の近代化は国際社会からの投資と技術移転がもたらしたが、金融も技術も香港経由で入ったケースがあまたあった。何より通貨香港元を仲介役にすることで中国人民元と米ドルの交換が行われた通貨取引は、中国になくてはならぬ恩恵を与えもした。深圳(しんせん)に拠点を置いたアリババ、ファーウェイ、テンセント、バイトダンスがユニコーン企業に育ち、同地が中国のシリコンバレーと呼ばれるようになったのも、国際金融都市・香港に隣接していたことが最大要因で、容易に資金調達できたからだ。
「東洋の真珠」といわれたその香港の輝きを失うようなことがあれば、不動産バブルの破裂で経済的低迷を余儀なくされている中国にとって、さらに苦難の道を強いられかねず、そのリスクを避けたいのが中国の本音だろう。
だが所詮(しょせん)、金の卵を産む鶏を絞め殺そうとしているのは中国自身だ。5年前の香港国家安全維持法(国安法)で「香港の自由の灯」は吹き消された。これをもって香港の一国二制度は形骸化され自由は死んだ。国安法の文言には表向き「一国二制度の貫徹」や「高度自治方針」を謳(うた)ってはいるものの、本質は治安維持法だ。国家分裂罪や国家転覆扇動罪などで、中国共産党批判を封印する治安維持法でしかない。
結局、民主活動家は一斉逮捕され、自由な言論は封印された。中国の真実を書いてきたリンゴ日報は廃刊に追い込まれ、社主だった黎智英(ジミー・ライ)氏は投獄され、有罪判決を受けた。
甘い朝日の時代認識
西側の大手メディアは取材の自由がなくなった香港から去り、多くの国際金融機関もシンガポールやドバイなどへ移転した。
こうした「高度な自治」を保障した一国二制度の反故(ほご)問題に関し、朝日は12日付社説で「そう(反故)考えざるを得ない事態が続いた。一つは、新界地区で11月26日に起きた高層住宅の大規模火災。もう一つは、12月7日の立法会(議会)選挙である」と指摘しているが、時代認識が甘いと断罪せざるを得ない。
一国二制度の反故は、2020年6月30日に公布施行された国安法にあるからだ。
(池永達夫)





