トップオピニオンメディアウォッチ米国の「国家安全保障戦略」の発表を受け、欧米間で不協和音が高まる

米国の「国家安全保障戦略」の発表を受け、欧米間で不協和音が高まる

ワシントンで政権の国家安全保障戦略について演説するトランプ大統領(UPI)
ワシントンで政権の国家安全保障戦略について演説するトランプ大統領(UPI)

欧州文明の消滅警告

 米国のトランプ政権が5日発表した外交・安全保障の指針を示す「国家安全保障戦略」(NSS、全33ページ)は、欧州で大きな波紋を呼んでいる。トランプ大統領は前文で「人類歴史上で最も偉大で成功した国家となり、平和のホームとなるためのロードマップ」と述べ、「米国が世界を支えてきた時代は終わった」と表明し、「米国ファースト」を改めて強調している。第2次トランプ政権は国際社会への関与から国益に重点、そしてラテンアメリカにおける米国の優位性強化へと転換する一方、これまで緊密な同盟国だった欧州に対してかなり厳しい視線を投げ掛けている。

 米国の戦略文書では、欧州連合(EU)の現状を米国の利益に対する障害と位置付け、「大陸ヨーロッパは、創造性と勤勉さを損なう国内および国境を越えた規制もあって、世界の国内総生産(GDP)に占める割合を1990年の25%から現在では14%へと低下させている」と指摘、「欧州は文明消滅の危機に直面している」と警告している。

 そして欧州が直面するより大きな問題として、「政治的自由と主権を損なうEUやその他の国際機関の活動、大陸を変容させ紛争を生み出す移民政策、言論の自由の検閲と政治的反対勢力に対する抑圧、出生率の急落、そして国民的アイデンティティーと自信の喪失」などを羅列し、「現在の傾向が続けば、20年かそれ以内に欧州大陸は別物と化してしまうだろう。一部の欧州諸国が、信頼できる同盟国であり続けるのに十分な経済力と軍事力を持つかどうかは、明らかではない」と説明しているのだ。

内政干渉と欧州反発

 ドイツ連邦議会の副議員団長でキリスト教民主同盟(CDU)の外交政策専門家、ノルベルト・レットゲン氏は7日、「米国は第2次世界大戦終結後初めて欧州諸国をもはや支持していない」と強調、「米国は欧州諸国への内政干渉も外交政策の目標としている」と説明している。

 米国の欧州政策の重点は明らかにハンガリーのオルバン首相が率いるフィデス党やドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)といった右派ポピュリスト政党の強化だ。その結果、欧州諸国の結束を揺るがせ、分裂を一層深刻化させることが懸念されている。

 EU理事会のアントニオ・コスタ議長は7日、ブリュッセルのジャック・ドロール研究所主催のイベントで、米国のNSSに言及し、「欧州の政治への干渉を受け入れることはできない」と述べた。さらに、米国は欧州市民に代わって「どの政党が善で、どの政党が悪かを判断することはできない」と付け加えた。

 ドイツのヴァーデフル外相は6日、「北大西洋条約機構(NATO)同盟における米国は、現在も、そしてこれからも、最も重要な同盟国であり続ける」と強調する一方、「表現の自由や民主主義などの問題に関して誰かが私たちに助言する必要はない」と釘(くぎ)を刺している。

露は認識一致と評価

 一方、米国のNSSを評価しているのはロシアだ。「米国の文書はロシアの認識とおおむね一致している」と指摘している。クレムリンは、米国がロシアをもはや「直接的な脅威」とは見なさなくなったことを歓迎している。いずれにせよ、NSSにはロシアに対する批判的な文言はない。

 クレムリンのペスコフ報道官は、米国の新たな安全保障ドクトリンに盛り込まれた「NATO軍事同盟の継続的な拡大という概念と実現を終結させるべきだ」という記述を評価している。

 欧州諸国が米国のトランプ政権に対して批判的であり、時には不信感を有していることはよく知られている。欧州とウクライナが参加しない交渉テーブルでロシアのプーチン大統領とウクライナの和平問題を協議する米国に対して、欧州首脳が不信感を吐露していた電話会合の内容がリークされたばかりだ。独週刊誌シュピーゲルによると、マクロン仏大統領は「安全の保証が明確でないまま、領土問題で米国がウクライナと欧州を裏切る可能性がある」とまで言い切っている。

 第2次トランプ政権が発表したNSSは欧米間のパーセプションギャップを一層深刻化させている。

(小川 敏)

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