
まるで中国官僚の弁
高市早苗首相の「存立危機事態」発言を中国政府がことさら政治問題化させ、再開されたばかりのホタテ等水産物の輸入を止めたり、日本旅行や日本芸能人の中国公演を自粛させたり、挙げればきりがないほど、各分野で対日圧力を強めている。
これらのニュースを伝えながら、まるでこうなったのは「高市のせいだ」と言わんばかりに煽(あお)っているのが新聞、テレビらの「オールドメディア」で、週刊誌にもその類の記事が多い。
サンデー毎日(11月30日号)で「ニュース最前線」を書いている倉重篤郎毎日新聞客員編集委員は、高市首相の発言を「熟慮なき『猛勇』姿勢の軽はずみ」と強い言葉で非難した。まるで中国の官僚が忖度(そんたく)して言いそうな言葉だ。
薛剣(せつけん)駐大阪中国総領事の「汚い首は斬ってやる」という“戦狼外交”丸出しの暴言は問題にもせず、また、しつこく更問(さらと)いした立憲民主党の岡田克也元外相のやり口も不問に付しておきながら、自国の首相にだけ上から目線で“説教”しているのをみると、いったいどこの国のメディアなのかと首をかしげる読者も多いのではないだろうか。
スタート間もない政権に国の行く道を誤らないよう監視し提言するというメディア本来の使命、姿勢を逸脱しているとしか思えない。時事通信の「支持率下げてやる」発言と軌を一にするものだ。
ところで、高市首相はまんまと岡田氏の“挑発”に乗ってしまったのだろうか。各誌が伝えるのをみると、どうもそうではなさそうだ。週刊文春(11月27日号)は「実は、曖昧さが許せない彼女の気性も影響したようだ」として、高市氏は「建前ではなくタカ派としての『本音』を言った」という「首相の周辺」の言葉を伝えている。記事のニュアンスは「だから、危なっかしくて見ていられない」というトーンがあるのが残念で、これも前述のサンデー毎日と似たり寄ったり。
習主席からの指示か
さて、日本人からの評判も良く「紳士的」ともいわれる外交官(薛剣氏)が「前代未聞の暴言」を相手国の首長に投げ付けるのはよほどのことである。共産国家という統制の強い体制で総領事クラスが「上」からの指示なしでやれることではない。
「ジャーナリストで翻訳家の高口康太氏」は週刊新潮(11月27日号)で「最終的に中国共産党上層部、つまり習(近平国家)主席が“今回は徹底的にやる”と決断したのだと思います」と語っている。そうなると「中央の意図を各省庁や地方政府が汲み取り、(略)様々な分野で報復が行われる可能性」(同)が出てくることになる。
しかし、高市氏の「存立危機事態」解釈は歴代政権と変わるものではない。兼原信克元内閣官房副長官補は「当たり前のことで、答弁は妥当」としている。兼原氏は安倍政権下で安保法制制定に携わった人物だ。
「台湾有事は日本が最前線になってしまうわけです。(略)日本が安保法制を作った理由はそこにあって、中国が台湾有事を起こすことを抑止する。それこそが我が国の安全保障上、今世紀最大の課題なのです」と安保法制の意義を語る。
「曖昧戦略」から転換
高市発言によって「そのせいで戦争が起きたらどうする」と騒いでいるのは中国と日本の偏向メディアぐらいなもので、むしろ、これまで日本政府が取ってきた「曖昧戦略」から脱して「覚悟」を各国に示すことこそ「抑止」だということを明らかにした場面だったわけだ。
岡田氏は高市首相の発言が台湾に及ぶと「しまったと思った」と後に語っているが、「追い込み過ぎた」というよりも、高市氏がこの機をとらえて「曖昧から踏み出す“手助け”をしてしまった」ことを慌てたとも解釈できる。
「高市総理は誰もが考えていた当たり前のことを普通に言っただけ」(杉山晋輔元駐米大使)だとすれば、なぜ今回に限って習主席が本気で怒り、対日制裁を発動させたのか。この問いに応える記事がなかなか見当たらない。これこそ、今回の「日中“新冷戦”」(文春)を理解する上で重要なポイントになるのにだ。
おそらく答えは出ているのだが、それを言えば中国の本音、つまりウィークポイントを明らかにしてしまうことになり、あえて触れない、という見方もできる。せめてわが国のメディアであるという前提だけは失わないでほしい。
(岩崎 哲)





