お家芸の経済的圧力
高市早苗首相が台湾有事は「存立危機事態」になり得ると国会答弁したことを巡り、中国が反発を強め次々と対抗措置のカードを切っている。中国外務省は日本への渡航を控えるよう、教育省は日本留学を慎重に検討するよう国民に注意喚起した。また文化観光省も日本への旅行を避けるよう促した。旅行客を減らし経済的圧力をかけるのは、中国のお家芸の一つだ。

早速、朝日は8日付社説で、「首相の見解は政府による拡大解釈に道を開くものだ」とし集団的自衛権行使への懸念を示し、東京は11日付社説で「軽率で不用意な発言」と非難した。
一方、産経は17日付主張で「日本では一部野党などが首相発言を批判した。台湾情勢の深刻さも、日米同盟の抑止力の意義も理解しない謬論(びゅうろん)」とし「結果として中国の覇権主義に与(くみ)している。猛省を促したい」と総括した。その上で「もし中国などの要求に応じて首相が発言を撤回すれば、台湾をめぐって戦争が起きる恐れはかえって高まる。撤回こそが危機への道と肝に銘じたい」と釘(くぎ)を刺した。
なお米戦略国際問題研究所(CSIS)は台湾有事のシミュレーションを24回実施し、ほぼすべてで中国軍の台北陥落は不成功に終わっているものの、2回だけ中国軍勝利のシナリオがあったとされる。一つは米軍不介入の「台湾単独シナリオ」。もう一つが、日本が中立を保ち米軍を支援しない「日本中立シナリオ」だ。これは台湾有事が万一起きたとき、日本の戦略的姿勢が戦争の結果に致命的な影響を与えることを示唆したものだ。
中国側の異常な反応
人は痛いところを突かれたとき、しばしば怒号を発する。
今回の高市氏の「存立危機事態」発言に中国側が異常な反応を示すのも、中国にとって不都合な戦略的「存立危機事態」を招いたことが怒りの本体である可能性が高い。
そうであるならば中国の怒りを鎮めるため、わが国はばたばた慌てる必要は微塵(みじん)もない。
貿易立国の日本にとって主要物流ルートのシーレーンとなっている台湾海峡周辺の安全保障は、国家の死命を制する重要事項だ。
わが国がすべきことは「台湾有事は日本有事」と喝破した安倍晋三元首相の戦略眼をベースに、日米同盟を発展深化させ万全な地域の安全保障体制を敷くことだ。しっかりした抑止力こそが、如何(いか)なる国の暴走をも押しとどめるからだ。
安全保障は同盟や武力だけではなく、リーダーの意志と国民の意識といった要素の掛け算で担保される世界だ。このうち一つでもゼロがあれば、全体の抑止力はゼロになる。
その意味でも高市氏の発言は統帥権を持つリーダーとしての意志を鮮明にし、失言どころか中国の暴走に対する大きな抑止力になったと私は評価する。産経が、中国の要求に応じた「発言撤回」こそが台湾有事を招くという主張は問題の核心を突いている。
孫子の兵法地でいく
中国は経済的圧力をかけることで政治の本丸である永田町の外堀を埋め、日米同盟に楔(くさび)を打ち込むことで戦わずして勝つ孫子の兵法そのものを地でいっている。
それにしても薛剣(せつけん)・駐大阪総領事がSNSに「(首を)斬ってやるしかない」と書き込んだのにはあきれ果ててしまう。読売は13日付社説で「外交官として不適切極まりない。日本政府が抗議したのは当然だ」と書き、日経は16日付社説で「中国側の言動は『抗議』の範囲をはるかに超えている」と言い、「論外だ」と切って捨てる。
(池永達夫)






