
“ご祝儀相場”はなし
高市早苗首相が誕生した。憲政史上初の女性首相だ。女性か否かにかかわらず新政権が誕生すると“ご祝儀相場”で好意的な記事が並ぶものだが、高市政権にはなぜか辛口、もっと言えばあら探しの方が目立つ。
確かに日本維新の会との協力合意は電撃的で、定数是正も選挙区調整も見切り発車で、とにかく政権発足を急いだ感はある。なので突っ込みどころは数多くあり、これらがいずれ綻(ほころ)びとなる可能性はあるかもしれない。そこを突くのがメディアの役割と言えばそうだが、それでは初めて「ガラスの天井」を破って首相に就いた高市氏に対して、あまりにも厳しく辛過ぎはしないか。
週刊文春(10月30日/11月6日号)は維新との選挙区調整のほか、ガソリン税の暫定税率廃止、小学校給食無償化、社会保険料の引き下げで「財源はどうするのか」と突っ込んでいる。「赤字国債の発行もあり得る」と「一橋大学経済学部教授の佐藤主光(もとひろ)氏」のコメントを載せ、インフレ地獄が待っていると犬笛を吹く。
そうかと思えば、高市首相が「『私がいない時は古屋に』と言うほど頼る古屋圭司選対委員長」の政治資金について、重箱の隅をつつくようなことで揺さぶりをかける。古屋氏は「政治資金規正法に則って、適宜適切に処理報告を行っております」と文春の取材に答えている。やりとりが一巡して、これで済んでしまうようなことをあえて取り上げるいつもの週刊誌の“決め打ち”パターンだ。
また、高市氏の「秘書と言われれば秘書」という現在鎌倉市議会議長をしている人物の訴訟トラブルを書いている。「秘書と言われれば秘書」というのは高市氏の政治活動を一時的に手伝った程度の話で、選挙になると後援会の役員や関係者らに乱発される「秘書」だの「選対本部長」だのという肩書の類いだ。こんな怪しい名刺を持った者は与野党を問わずごまんといる。しかも、このトラブルは高市事務所で活動する前のことで、高市氏が責任を負うべきものでもない。
これらを文春は「次々と明らかになる疑惑」と書く。高市叩(たた)きありきの姿勢であることは明白だ。読者はこうした週刊誌のやり口はとっくにお見通しで、いつまでもこんなことを続けていると本当に見捨てられる。
自・維連立の内幕紹介
一方、週刊新潮(10月30日号)は「自・維連立の全内幕」を紹介している。キーマンは維新の遠藤敬(たかし)国対委員長だ。高市氏とは議院運営委員会で付き合いができた。遠藤氏が高市総裁就任に「大変やろうと思うけど、頑張ってください」とメールを送ったのがきっかけで、高市氏がすぐに「一緒にやりましょう」と電話を掛けた。これが自民・維新連立のスタートだった、というエピソードだ。
他にやはり選挙協力の難しさ、党役員、閣僚人事、官邸人事などについて書いているが、「高市政権、危険な船出」という見出しの割には好意的な内容だ。
報道を見ていて思うのは、連立工作から政権の骨格まで全部高市氏がやっていて、いわゆる「内閣の生みの親」的な自民党実力者の姿が見えないことだ。当初、国民民主党との連立が模索されていたが、玉木雄一郎代表がぐずぐずしている間に維新との話が始まった。維新にパイプがあるのは菅義偉元首相だが、小泉進次郎推し。高市総裁を後押ししたのは菅氏の「政敵」である麻生太郎元首相。なので菅氏は維新との交渉には登場していない。新潮は「高市氏自ら交渉に乗り出さざるを得なかった」と「政治部デスク」に語らせている。自民党長老の影が薄いのはむしろ世代交代が進んでいるということで自民にとってはいいことだろう。
電撃解散で自民劇勝?
びっくりしたのは週刊ポスト(10月31日号)だ。「電撃解散総選挙で高市自民240議席超え劇勝!」の記事。ただこの数字、「政治ジャーナリストの藤本順一氏」が「あり得ないこともない」と言っただけのもので根拠に乏しい。とはいえチャットGPTに聞くと「300」以上の数字を出してくる。あながち希望的観測だけではなさそうだ。
ともかく高市政権の船出はいくら叩こうが希望的な先が見えてくる。週刊誌は記者の良心に従って記事を書いてほしい。
(岩崎 哲)





