斉藤―呉会談報じず
「ネット社会 それでも頼る この一面」。今年の新聞週間(今日まで)の標語がこれである。ネット社会にはユーチューブなどのSNSでさまざまな情報が飛び交っており、これらの真偽を新聞で確かめたいと思うことがしばしばある。だが、新聞はそれに応えているのか、大いに疑問だ。
例えば、自公連立政権から離脱した公明党の斉藤鉄夫代表を巡るネット情報についてだ。斉藤代表はユーチューブ番組「リハック」に出演した際(11日放映)、同プロデューサーの高橋弘樹氏から「(連立離脱)直前に中国大使さんと会ったんでしたっけ。『中国大使から何か言われたんじゃないですか』みたいな質問がいっぱい来てるんですよ。どんなこと話されたんですか」と問われ、「いや、そ、それは、あのー…ちょっとそういう会話の内容については、外交問題でもありますし、ちょっと控えさせてもらいたい」と言葉を濁している(「よろず~ニュース編集部」12日配信)。
どうやら国民に堂々と明かせない会話だったようだ。中国大使、すなわち呉江浩大使と会う予定は「だいたい1~2週間前」に決まっていたというから総裁選の最中に会談日程を決めたわけだ。5月、国会議員との座談会で日本が「台湾独立」に加担すれば「民衆が火の中に連れ込まれる」との脅迫発言を行った人物だ。一昨年4月にも同様の発言をしており、松原仁衆議院議員は「脅迫発言を繰り返す中国大使の追放に関する質問主意書」(昨年5月)で、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)であることを通告して、追放すべき」だと政府見解を質(ただ)している。そんな“恫喝(どうかつ)大使”から斉藤代表は何を言われたのか、連立離脱と関係があるのか、確かめたいと思っても新聞は報じておらず、まったく頼りにならない。
恐るべきテロ容認論
新聞週間が始まった15日、「毎日新聞ニュースレター」(ネット会員向け)から「注目の連載情報」が送信されてきた。「安倍元首相銃撃事件の公判が始まります。事件の社会的意義を振り返る企画『凶弾』」とし、「事件をきっかけに旧統一教会の違法な献金勧誘と親の信仰によって苦しむ『宗教2世』の問題に光が当たり、教団の解散命令につながりました。事件の社会的意義を改めて振り返ります」と安倍元首相銃撃に「社会的意義」(社会の役に立つ肯定的評価)を付与していた。恐るべきテロ容認論である。

その2日後の17日に毎日から「『凶弾』の紹介文に、『事件の社会的意義』という表現がありました。不適切な表現でした。おわびします。訂正して再送します」との「おわび」の配信があった。不適切表現は「事件が社会に与えた影響を改めて振り返ります」と書き換えられていた。
「おわび」には触れず
毎日18日付に「凶弾」上、19日付に同・中が載ったが、ネット配信の「おわび」について一字も触れていない。これもネットでは「J-CASTニュース」(17日配信)が「安倍元首相銃撃事件の『社会的意義』振り返る? 毎日新聞、新連載PRで批判殺到→『不適切な表現』と謝罪・訂正」と題し詳報している。
それによると、SNS上では「社会的意義」という表現に対し、「テロに社会的意義なんてあるか」「テロの社会的意義を肯定してしまってます」などの批判が相次ぎ、自民党・滝波宏文参院議員も17日、「テロ犯の思いを実現しようとばかりしている」「何で日本の民主主義を壊す方向に向かうのか」とX(旧ツイッター)上で批判。これを受けて毎日は訂正したとしている。この経緯を辿(たど)ると、「ネット社会 それでも頼る この一面」は笑止千万。新聞よりもネットが頼れるのだ。
公益財団法人「新聞通信調査会」の世論調査によれば、新聞購読率の減少が続き50・1%となり、毎日接するニュースはネットが初めてトップとなった(時事12日)。さもありなん、である。
(増 記代司)





