路線争い激化懸念も
メディアの世界では、政党や新しい人物を紹介する時、「彼は保守派です」とか、「ポピュリストだ」といったレッテルを貼ることが結構ある。読者へのサービスという面もあるが、多くは書き手の記者がその後のストーリーを展開しやすくする狙いがある。
米国出身の初のローマ教皇レオ14世が誕生した時、新教皇が保守派か、改革派かでさまざまな臆測が飛び交っていた。レオ14世自身が教皇就任以来、未来の教会像について表立って明らかにはしていないこともあって、臆測は臆測を呼ぶ、といった状況だ。
最近、レオ14世はウェブサイト「Crux」の米国人ジャーナリスト、エリーゼ・アン・アレン氏との2度にわたる長時間の対談に応じた。その中で、教皇は「フランシスコ教皇が開始した画期的な改革をすぐには継続する考えはない。当面は教会の教義と道徳観を変える方針はない」と述べた。そのことが9月18日に報じられると、レオ14世に前教皇フランシスコの改革路線の継承者を期待してきたカトリック教徒の間に失望の声が飛び出した。
ローマの新聞「イル・メッサジェロ」は、「新たな緊張」と大きな見出しを付け、「レオ14世にとって、今秋は厳しい秋になるだろう。保守派と改革派の休戦は終わった」と報じ、両派の路線争いが激化するだろうと報じた。ただ、バチカンの官製新聞「オッセルバトーレ・ロマーノ」は、「新教皇、分極化からの脱却と橋渡し」という融和的な見出しを付けてインタビュー記事をまとめていた。
同性の祝福式は拒否
長時間インタビューから、教皇の世界を探っていく。女性問題について、「これは今後も問題であり続けるだろう。現時点でこの問題に関する教会の教えを変えるつもりはない」と答え、性に関する教義論争については、すべての人々を教会に迎え入れるという前教皇の温かみのある姿勢を踏襲しつつも、社会の基盤として伝統的な家族を明確に肯定している。また、ドイツをはじめとする幾つかの国で導入されている、同性カップルや「互いに愛し合う人々」のための教会の祝福式を明確に拒否している。教義ではレオ14世は明らかに保守派に属する。
多くのメディアは「ペルーで長い間宣教師として歩んできたレオ14世は、貧者、弱者への思いが深いという点でアルゼンチン出身のフランシスコ前教皇と酷似している」とか、「社会改革運動に積極的だったレオ13世を尊敬しているから、社会面でリベラルな政策を推進するのではないか」といった臆測記事を流したが、米国人レオ14世がフランシスコ前教皇のクローンではないことが次第に明らかになってきた。
レオ14世は教皇就任直後、フランシスコ教皇が提唱した世界シノドス路線を継承していくと発言したことで、世界のカトリック教徒はレオ14世にリベラルな教会改革を期待したが、レオ14世にはそのようなレッテルが次第に重荷となってきたのかもしれない。
注意深い実務主義者
難民・移民問題で人道的な対応を要求し、強制送還に異議を唱える教皇の発言が報じられると、レオ14世は「反トランプ派だ」といわれ、貧しい人々への理解を吐露し、行き過ぎた資本主義経済を批判した初の公式教義勧告「Dilexi te」を公布すると、「教皇は反資本主義者だ」と報じられ、一部では「解放神学者だ」というレッテルを貼られてしまった。
教会は貧しい人々に愛の手を差し伸ばすのは通常であり、貧しい難民を強制送還しろと主張した教皇は過去にも現在にもいない。新教皇に対して、反資本主義者だとか、反トランプ派といったレッテル貼りは少々早計過ぎる。新教皇は失言を恐れ、何事にも慎重な実務主義者だ。ただ、メディアにとっては“面白い教皇”ではないかもしれない。(小川 敏)





