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米中関税戦争再燃、目の前の軋轢に翻弄され大局観のない読売・日経

両国に自制を求める

 トランプ米大統領は10日、対中関税に関し11月1日から現行の30%に加え100%の追加関税を課す考えを明らかにした。米中関税戦争は相互に115%の関税引き下げという5月の合意以降、休戦状態を維持していたが改めて秋の陣が始まった格好だ。

 米中関税戦争再燃は、中国商務省が9日発表したレアアース(希土類)の輸出規制が契機となった。中国はレアアースに関し輸出許可取得を義務付けるだけでなく、関連技術の対象を拡大させ、採掘や製錬、磁石材料の製造といった技術の移転にも中国当局の許可が必要とした。

 トランプ氏はこれに強く反発し、「陰湿で敵対的な動きだ」として月末に予定されているソウルでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた米中首脳会談中止をも示唆した。

 早速、読売と日経が社説で取り上げた。

 13日付の日経社説「米中は無益な関税戦争の愚を繰り返すな」では、「米国と中国は世界経済を混乱に陥れる関税引き上げ合戦の愚を繰り返すつもりなのか」と「トランプ大統領と習近平国家主席に最大限の自制を求めたい」とした。

 12日付の読売社説「追加関税100% 米中は不毛な貿易戦争避けよ」も同様の論旨で、「関税交渉を巡る駆け引きという側面もあろうが、対立が深まれば、世界経済に大きな打撃が及ぶのは必至だ」とし「不毛な応酬に陥らぬよう、米中両国は自制せねばならない」とはやる血気を抑え冷静な対処を求めた。

世界の覇権巡る確執

 同社説では「米国企業などが中国産レアアースをわずかでも含む製品を輸出する場合、中国当局からライセンスを取得する必要がある。外国の軍隊と関係を持つ企業へのライセンス供与は拒否されるという。軍事目的の輸出は原則禁止となる」と米国の軍需産業にとって致命的な足かせをはめようとしている実態を解説。

 その上で「レアアースは、戦闘機や潜水艦、ミサイルなどに不可欠だ。新規制は、米国の防衛産業のサプライチェーン(供給網)に甚大な打撃を及ぼす可能性が高い」とし「トランプ氏との会談を控える習氏には、関税交渉で譲歩を迫る狙いがあるとみられる。一方、米国側は、国家安全保障上の重大な挑戦だと受け止めたのだろう」と総括する。

 中国にしてみれば首脳会談を前に対米バーゲニングパワーをアップさせるための牽制(けんせい)カードのつもりが、トランプ氏の逆鱗(げきりん)に触れることになった格好だ。

 ただ日経・読売両紙とも「米中の自制を求める」という結論を見る限り、目の前の軋轢(あつれき)に翻弄(ほんろう)され大局的な視点が欠落している懸念を強く感じる。

 現在、米中で行われている駆け引きの核心は、欧米など西側諸国が主導してきた現存の国際秩序に挑戦状を突き付けている新興国中国と米国の確執にある。世に言う「ツキディデスの罠(わな)」だ。

 トランプ氏がロシアに肩入れするような期間が長かったのも、ロシアを中国から切り離して実質的な「中露の同盟化」にくさびを打とうとしたからだ。

 懸念すべきは米中の軋轢そのものではなく、基本的人権を軽視し、恐怖感を利用した力の統治を国家原理とする中国が世界の覇権を握るようなことになれば、とんでもない事態になるということだろう。

中国の牙どう抜くか

 そのためには、ユーラシア大陸の東西を海路、陸路で結ぶ一帯一路で中国を中心としたユーラシア経済圏を構築し、さらに上海協力機構で安全保障の網を広げることで、経済と軍事、外交を束ね米国の力をそぎ落とそうとしている中国の野心をしっかり把握する必要がある。

 一帯一路も上海協力機構(SCO)も北京の目は一見、西に向いているようでも照準はしっかり東に向けられ、米国という本丸を落とすための外堀を埋める作業に取り掛かっているのだ。西側諸国が取り組むべき問題の核心は、中国の牙をどう抜くかということだろう。

(池永達夫)

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