無理筋の公明の主張
理念や政策抜きの政党間協力は「野合」と呼ばれる。安倍内閣打倒を掲げた「立憲共産党」がその典型だ。「自公連立」もそんな野合の一つと見られてきたが、公明党が離脱を表明し26年に及んだ「自公協力」に幕を下ろした。これは慶事というべきか。
だいたい両党の国家観が根本的に違っていた。自民党は自主憲法制定を党是とする「改憲の党」だが、公明党は結党に際して「民主的平和憲法の擁護」を掲げた「護憲の党」だ。安保観も違うし、対中国観も違っている。大激変する国際環境下で確固たる国造りが不可欠な今、理念・政策抜きの野合は百害あって一利なしだ。産経の酒井充政治部長は「連立解消はスッキリした印象さえある」と言うが(11日付「自民保守回帰の追い風に」)、同感である。
公明党は離脱の最大の理由に「政治とカネの問題」を挙げたが、読売11日付社説はこれに疑問を突き付けた。企業・団体献金を受け取ることができる対象を、党本部と都道府県単位の組織に限定するよう求めたが、「公明は今春、収支報告書をオンラインで公開する党支部については献金の受け取りを認めることで、自民、国民民主両党と合意していたはずだ」と指摘し、「要求のハードルを上げたのは、自民がのめないことを承知で、連立離脱のもっともらしい理由を作りたかったようにも映る」と看破する。
その上で「派閥の規正法違反事件は、東京地検特捜部が捜査を尽くし、司法の場でほぼ決着がついている。不記載のあった議員は、衆参両院の選挙で有権者の審判も受けている。これ以上蒸し返しても、新たな進展は望めない」と公明党の主張を無理筋と断じ、「公明は連立を離脱することで独自色を出し、党勢を回復しようという狙いがある」「だが、創価学会員の高齢化は深刻で、立て直しは容易ではない」と突き放している。
他党党首選にブラフ
毎日11日付社説は「自民総裁選にあたり、斉藤氏(公明党代表)は『我々の中道路線に合った人でなければ、連立は組めない』とも警告していた」とする。これが事実なら、公明党は他党の党首選にブラフをかけていたことになる。学会票をありがたくいただいてきた議員にはブラフは効いても、草の根の自民党員に通用するはずもない。「(劣勢挽回を期す)自民は、高市氏の下で『保守回帰』へ走ろうとしている。中道路線の公明との乖離(かいり)はもはや覆い隠せなくなった」(毎日社説)。だが、高市総裁の保守回帰策はまだ明らかになっていない。それなのに早々と連立離脱を決めたのは党内事情からだろう。
これまで左派紙は公明党に「トロイの木馬」の役割を期待してきた。朝日は「選挙協力をテコに、憲法や安全保障など公明党は一定のブレーキ役を果たしてきた」(11日付、松田京平政治部長)と評価する。右傾化に縛りをかける魂胆からだが、安保については物足りなかったようだ。「公明は『平和の党』を掲げながら、2003年の自衛隊のイラク派遣、15年の安全保障法制の成立、22年の安保3文書改定など、自民が推し進める安保政策について、歯止め役として十分な役割を発揮することができなかった」(11日付社説)。高市総裁の登場でそれが一層、できなくなった。それで「お役御免」か。
朝日社説は公明党に次なる“ミッション”を与える。「『クリーンな政治』『大衆福祉』『平和』といった党の原点に立ち返り、党の存在意義を再確認できなければ、自民との『悪縁』を切っただけで党勢が回復するほど甘くはない」。自民党のブレーキ役を「悪縁」とし、「護憲派」に戻ってこないと先がないぞ、とのブラフとも読める。
骨太の国造り語らず
各紙は総理の座を巡る政党の組み合わせや議員の数合わせに終始し、骨太の「国造り」を語らない。とりわけ左派紙は“高市潰(つぶ)し”の新たな「野合」づくりにうつつを抜かしている。理念・政策を蔑(ないがし)ろにする懲りない面々である。
(増 記代司)





