トップオピニオンメディアウォッチ9月短観に解説で「利上げに追い風」とするも社説は慎重だった日経

9月短観に解説で「利上げに追い風」とするも社説は慎重だった日経

景気の「底堅さ」示す

 10月2日付読売「景気の先行きに警戒を怠れぬ」、日経「関税不安乗り越える強い内需の追求を」、4日付本紙「米関税への懸念依然晴れず」――。

 大企業製造業で景況感が2四半期連続の改善を示した日銀による9月の全国企業短期経済観測調査(短観)を受けて社説で論評を掲載した各紙の見出しである。掲載はこれまでに保守系の3紙のみ。

 景気の現状について3紙は、「緩やかな景気回復の継続を確認できた」(読売)、「景気の底堅さを示した」(日経、本紙)などとほぼ一致。先行きについても「懸念が消えたわけでない」などと大きな違いはなかったが、対策や政府・日銀への要望などで若干の違いを見せた。

 今回の短観は、日米関税交渉が妥結し、相互関税や自動車関税について、原則、15%の税率が適用されてから初めての調査。それだけに、企業がこの日米交渉の合意をどう見ているかが焦点の一つだったが、読売は「日本経済にとって最大のリスク要因だった関税を巡る不透明感が、一定程度、払拭(ふっしょく)されたことで、景況感の改善へとつながった」と指摘。他の2紙も同じ。

収益への不安根強く

 これを受け、読売は「企業が前向きな投資と積極的な賃上げを続け、家計へと恩恵を広げていくことが大切だ」とした。尤(もっと)もである。

 先行きについては、読売は「警戒は怠れまい」とした。「当初の、甚大な打撃が及ぶ水準から下がったとはいえ、高関税が米国向け輸出にかかるのは変わらない」からで、「関税を輸出価格に転嫁できなければ、収益の圧迫要因になろう」と心配する。日経なども同様で、「関税が大きく引き上げられた事実は変わらない。収益への不安は根強く残る」(同紙)とした。

 鉄鋼など景況感がすでに悪化した業種もあるため、読売は「政府は、資金繰りや生産網の再構築などへの支援策を急ぐべきだ」と2紙にはない細やかな対応を求めた。

 一方、大企業非製造業は、景況感が高水準を維持したものの、「長引く物価高で消費に弱さがみられることが懸念材料」(読売)で、インバウンド(訪日客)需要の「一服」(本紙)、「鈍化」(日経)から宿泊や飲食サービスは大幅に悪化した。

 物価高に賃上げが追い付かず、実質賃金は「3年以上、安定的にプラスへと転換できていない」(読売)。

成長戦略で内需強化

 読売は、物価高対策が主要な争点になった自民党の総裁選について、「現金給付や減税策など当座の措置ばかりで、決め手となる政策は見えてこない」と指摘し、「新政権は、低所得者層などを効果的に支援する物価高対策を急ぐ必要がある」と強調。賃金を安定的に上昇させていくには、「しっかりとした成長戦略が不可欠だ」と訴えた。

 確かに尤もなのだが、当たり前過ぎて新味がない(そうとしか言いようがないのかもしれないが)。

 利上げについては、読売は「時期を丁寧に判断していくことが重要になる」としか言及せず、物足りない。本紙は「米関税への懸念が払拭されるまで、当面は利上げは難しい状況といえ、すべきではないだろう」と一歩踏み込んだ。

 日経は、2面解説面で見出しに「日銀利上げに追い風」と記したが、社説面では「日銀は関税の影響をにらみ慎重に利上げの機をうかがうが、審議委員の一部は早期利上げを求めている」としつつも、「今回の短観や長引く物価高を踏まえ、丁寧な情報発信と適時適切な判断を求めたい」と慎重な表現にとどめた。

 同紙は自民総裁選に絡め、「拙速な利上げは内需を冷ます一方で、物価高を放置すると低所得層を中心に生活苦を強いる」と指摘。目先の給付や減税にとどまらず、「経済政策で金融政策をどう位置付けるか、という視点が重要だ。具体的な成長戦略とともに議論を深めてほしい」と注文を付けたが、同感である。

(床井明男)

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