「保守回帰」潰す思惑
自民党総裁選を巡るメディアの予測報道は大外れだった。各紙は小泉進次郎農林水産相の当選をそろって予測したが、結果は高市早苗前経済安全保障担当相が第1回投票でトップ、決選投票でも小泉氏を突き放し自民党初の女性総裁となった。
なぜ新聞の予測報道は外れたのか。それは政治部記者の「政局目線」が先行し、「党員世論」(自民党員・党友の思い)を軽んじたからにほかならない。とりわけ左派紙には自民党の「保守回帰」を潰(つぶ)そうという思惑が見え見えだった。
その典型例を毎日で見ておこう。同紙の世論調査(9月20、21日実施)によれば、総裁候補の支持率トップは高市氏で25%、2位は小泉氏の21%だったが、これを自民党支持層で見ると逆転して小泉氏が40%で高市氏の22%をダブルスコア近く引き離しているとし、まるで小泉氏で決まり、と言わんばかりに報じた(同22日付)。小泉氏40%支持はにわかに信じ難い数値だった。
その後、小泉氏の「メモ読み発言」や同陣営の「ネット操作疑惑」が取り沙汰され支持に陰りが見え始めるが、それでも毎日は10月2日付1面トップで「小泉氏先行 高市、林氏追う 決選投票確実」との見出しで「本紙情勢調査」を報じた。
地方の動向取材不足
小泉氏先行の根拠は国会議員の支持が最多で、これに林芳正氏が続き「高市氏は広がりを欠いている」からだとしている。党員・党友の支持動向については「高市氏と小泉氏が競り合い、いずれも全体の3割前後(80~100票前後)を確保する勢いだ」とし、高市氏について次のように記した。
「(昨秋の前回総裁選では)高市氏は39都道府県で党員票がトップに立つ圧倒的な強さを見せていた。ところが今回は小泉、高市両氏がそれぞれ15前後の県などでリードした上で、8都県で2氏がトップ争いを展開しているとの見方を都道府県連関係者が示し、小泉氏が対抗している」
つまり党員票も小泉氏は奮闘しており、国会議員の多数支持を加味すれば小泉当選は動かないという筋立てである。だが、これが大外れだった。投票結果は高市氏トップが31都道府県、これに対して小泉氏は9県にとどまった。トップ争いを演じているとした東京都では高市氏が約2万4000票を獲得し、小泉氏の約1万3000票を圧倒していた。毎日記事はまったくのヨタ記事だったのである。
毎日記者が地方の動向を真剣に取材した形跡はない。「都道府県連関係者」の話だけでお茶を濁しており、あまりにも雑である。永田町のデスク上の作文なのだろう。高市氏が総裁選で勝つには国会議員票を凌駕(りょうが)する圧倒的な都道府県票の獲得が必要とされたが、それに水を差す左眼の「政局目線」と言わざるを得ない。
高市新総裁誕生後、毎日社説は冒頭でいきなり「偏狭な姿勢を排し、幅広い声に耳を傾けなければ、根深い政治不信は払拭(ふっしょく)できない」と高飛車に言ってのけた(5日付「幅広い声聞き不信払拭を」)。高市氏の保守のスタンスは毎日にとっては「偏狭な姿勢」としか映らないのだろう。これでは高市新総裁誕生の背景は知る由もあるまい。
左派的政策に忌避感
ここは読売に語ってもらおう。「(自民は)必要性が曖昧なまま性的少数者(LGBT)への理解増進法を成立させたり、選択的夫婦別姓に前のめりになったりと、リベラル色を強めていた。かねて保守的な考えを示してきた高市氏が党員の支持を集めたのは、そうした左派的な政策への忌避感も影響した可能性がある」(5日付社説「存亡の岐路で舵取り託された」)。可能性ではなく、ずばりそうだろう。
産経は言う、「自民は保守政党の原点に返らなければならない」(5日付主張「全身全霊で危機克服を」)。その一歩を踏み出せるか、そこが高市自民党の最大の課題だろう。むろん左派紙はその阻止を狙う。第2次安倍内閣の延長戦が始まろうとしている。
(増 記代司)





