強まる受賞への欲求
トランプ米大統領がノーベル平和賞受賞を強く求めていることは第1次政権時から知られていることだが、2期目に入り、さらに欲求は強まっているようだ。
平和賞発表まで10日の9月30日の演説で、自身の受賞は「絶対ない」とした上で、受賞できなければ「米国への侮辱だ」と訴えた。どうしても諦め切れない怨念のようなものすら感じる。「何もしていないのに受賞」したオバマ元大統領への恨み節か。
2018年に受賞したイラク少数派ヤジディ教徒の女性人権活動家ナディア・ムラドさんをホワイトハウスに招いた際に「どうやって(平和賞を)もらったんだ」と聞いたという話は有名だ。
だが、日ごろトランプ氏に批判的なリベラルメディアは、総じて受賞に否定的。その理由は大部分が、「関税で国際的な規範を破った」「国内、国際社会に分断を招いた」などだ。一方の保守系メディアは、世界の紛争地の和平を仲介しており、十分に受賞に値すると訴えている。
米NBCニュースは、「中東和平進めるトランプ氏、ひょっとすると受賞」とした上で、「前任者らが失敗してきた(中東で)成功したとしても、ノーベル賞はかなり難しい」と冷ややかだ。
CNN、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなどリベラルメディアの代表格も同じような見立てだ。
自身の受賞をこれほどアピールした受賞者が過去にいたかどうかは不明だが、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のカリム・ハガグ所長はAFP通信に対し、「現地の仲介者や平和構築者たちが現場で行ってきた活動」に光を当てるべきだと主張、目立たないところで平和のために尽力し、犠牲となってきた人々こそ受賞すべきだとの見方を示し、トランプ氏の受賞には否定的だ。
「七つの紛争を解決」
トランプ氏は9月29日にイスラエルのネタニヤフ首相と会談、20項目のガザ和平計画を提示した。イスラエル軍のパレスチナ自治区ガザからの段階的撤収、イスラム組織ハマスの人質全員解放などをうたったものだ。
これについてハマスは3日、人質解放の「承認」を発表、「直ちに詳細を協議する用意がある」と前向きな反応を示した。現在の二大紛争、ウクライナとガザの一角を崩せば「ひょっとすると」とトランプ氏が考えるのも無理はないだろう。
トランプ氏は3日、自身のSNSに「重要な日だ。間もなく明らかになる。具体的な回答を待とう」と述べたが、脳裏にはノーベル賞がちらついているのか。
このタイミングでの和平計画が、ノーベル賞を当て込んだものかどうかは不明だが、30日の演説といい、受賞への「ラストスパート」感は確かにある。
一方の保守系メディアは受賞を支持。FOXニュースは「トランプ大統領がノーベル平和賞に値することは疑いの余地がない」とする論考を掲載、「実際に、紛争を解決し、世界のさまざまな地域に平和をもたらすことに貢献した」とトランプ氏の功績をたたえた。
また、ワシントン・タイムズ紙も「市場予測はトランプ氏がノーベル平和賞を勝ち取る可能性が高いことを示している」とかなり前向きだ。
トランプ氏は最近、世界の七つの紛争を解決したと主張した。アルメニアとアゼルバイジャン、パキスタンとインド、コンゴ(旧ザイール)とルワンダ、イスラエルとイランなどだ。一部、どの程度米政権が関わったかは不明との見方もあるものの、実際に米国の仲介で紛争が終結した地域があるのも事実だ。
ガザ停戦を実現なら
ギングリッチ元米下院議長(共和党)は、NBCに対し「もしトランプ氏がそれ(ガザ停戦)をやり遂げたら、ノーベル委員会がその事実を無視できるだろうか」と述べ、受賞に期待をにじませた。
トランプ氏が受賞できなければ、保守派からはノーベル委員会は偏向しているとの批判も出てこよう。
トランプ氏にとってノーベル賞は、追っても追ってもつかめない自身の影のようなものなのか。平和賞は10日に発表される。(本田隆文)





