トップオピニオンメディアウォッチ自民の参院選総括 「保守の思想を体現」と決意 求められる「立党の精神」

自民の参院選総括 「保守の思想を体現」と決意 求められる「立党の精神」

論説解説室長 宮田陽一郎

 石破茂首相(自民党総裁)が7日に退陣を表明したことを受け、自民では総裁選の真っ最中だ。自民は昨年10月の衆院選と今年7月の参院選で大敗し、連立相手の公明党と共に衆参両院で少数与党に転落した。党を立て直すには、物価高対策など目の前の課題への対応だけでなく、どのような国家を目指すかのビジョンの明示が必要だろう。

 自民機関紙「自由民主」9月16日号は1面トップで「石破総裁が退陣を表明」と見出しを掲げ、退陣表明会見の内容と共に退陣の原因となった参院選結果の総括文書について報じている。

 記事には「総括文書では『わが党には全国津々浦々に、地域に根差した強固な組織と先人が築き上げてきた保守政治の伝統がある』として、保守の思想を体現する党として国民に存在意義を示す決意を示し」たとある。

 総括文書は参院選の敗因の一つとして「若年層・現役世代と一部保守層の流出を招いた」ことを挙げている。岩盤支持層と言われた保守層を取り戻すために「保守の思想」を強調したのだろう。

 しかし、保守という言葉をアピールすればいいわけではない。2022年7月に安倍晋三元首相が暗殺されて以来、自民ではリベラル化が急速に進んだ。その象徴が、23年6月に成立し、施行されたLGBT理解増進法だ。体が男性の「トランス女性」によって公衆トイレや公衆浴場の女性スペースの安全が脅かされるのではないかという懸念は顧みられなかった。

 さらに政治資金収支報告書不記載問題で、党内の保守派の牙城だった旧安倍派が勢力を後退させた。選択的夫婦別姓制度を巡っては、党内の賛成意見に配慮して明確な反対姿勢を打ち出せなかった。挙げ句の果てには、参院選で大敗したにもかかわらず石破首相が続投を表明した際、退陣を求める声に対抗して左派が首相官邸前で首相激励のデモを行う始末だった。

 自民が保守政党として再出発するには「立党の精神」に立ち返るしかないのではないか。今年は立党70年の節目の年でもある。

 自民のホームページには「立党宣言・綱領」が掲載されている。この中の「党の使命」には「わが党は、自由、人権、民主主義、議会政治の擁護を根本の理念とし、独裁を企図する共産主義勢力、階級社会主義勢力と徹底的に闘う」という文言がある。日本共産党の党勢は衰退しつつあるが、マルクス主義の影響で国家や伝統的な家庭を敵視する思想は社会に根強く残っている。「保守の思想を体現する」というのであれば、愛国心や家庭の価値を重視する政策を掲げるべきだ。

 また「党の政綱」の「六、独立体制の整備」には「現行憲法の自主的改正をはかり」「世界の平和と国家の独立及び国民の自由を保護するため、集団安全保障体制の下、国力と国情に相応した自衛軍備を整え、駐留外国軍隊の撤退に備える」とある。

 「駐留外国軍隊の撤退」に関しては、現在の日米安保体制を踏まえれば可能性は低いが、中国や北朝鮮の脅威が高まる一方で米国の国力が相対的に低下し、日本の自主防衛力の向上が求められていることは確かだ。

 だが、戦力不保持と交戦権否認を定める憲法9条を改正しなければ十分に向上させることはできない。自民が憲法改正論議を主導し、自国を守るとともに地域と世界の平和に貢献する国家ビジョンを示してこそ、離れた保守層を取り戻すことができるのではないだろうか。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »