政局のカギ握る存在
石破茂首相の退陣表明に伴って10月4日に自民党総裁選が行われる。現在、5人の候補者が立候補し、それぞれの政策を掲げて支持を呼び掛けているが、少数与党にとっては誰が総裁の座を射止めたとしても、今後の政局のかじ取りは難しい。一方、今年7月の参院選で大きく躍進したのが神谷宗幣代表率いる参政党。「日本人ファースト」を掲げ、「愛国心の発揚」や「地域の祭祀(さいし)、偉人を尊重する教育」、さらには「夫婦別姓制度の否定」など歯に衣(きぬ)着せぬ保守的な物言いに国民が共感。同党の国会議員は現在、衆参両院で18人となっている。今後の政局の動向に大きなカギを握る存在となることは間違いない。
そうした中で週刊エコノミスト(9月23・30日合併号)が参政党に焦点を当てて特集を組んだ。その名も「参政党の研究」。同党が大きな勢力となった原因を探るとともに、強みと課題を分析する。2020年4月の結党から5年3カ月という短期間に、れいわ新選組や日本共産党の議席を上回る勢力をつくり上げた参政党だが、その要因について同誌は、「他党にはない独自の戦術を試みた。…参政党の躍進の背景には少なくとも三つの巧みなハックが認められる」(西田亮介・日本大学危機管理学部教授)というのである。ハックとはIT業界やSNSなどで頻繁に用いられる言葉で「抜け穴を突くこと」。
同教授によれば、「今やインターネットやボートマッチを通じて詳細な情報を得られるようになった。しかし、その情報が有意義な政治参加につながっているかは別の問題であり、むしろ複雑な選択の構造そのものがハックの対象になっている」とし、さらに「(外国人問題やワクチン接種問題など)マイナーな論点で主導権を握り、他党に対し(それらの問題への)対応に追わせることに成功した」と分析する。
強固な地方組織基盤
一方、今回の特集では、同誌の参政党に対する評価はおおむね懐疑的である。同党の憲法草案に対しても「国民の権利・自由を制限し、マイノリティーの幸福追求の機会を奪いかねない」(南野森(しげる)・九州大学法学部教授)、「『国民の要件は、父または母が日本人であり…』とある。国籍を血筋にした時点で、排外主義である」(デービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長)といった具合に、反参政党の人を登場させ、草案の危うさ、稚拙さを訴える。
そうはいっても、参政党の強みは、これまでの新興政党と違って地方の組織基盤が広がっている点がある。同党の地方議員は全国に157人。この数は、他党と比べると、国民民主党の160人に肩を並べ、社会民主党(81人)、れいわ新選組(52人)をはるかに上回る。さらに23年時点の党員数は4万5000人を超え、強固な資金力を生み出す態勢が出来上がっていると言える。
自民の議席が参政に
ただ、参政党が伸びた構図をシンプルに見れば、自民党が大幅に議席を失い、その票を参政党が受け止めたということにすぎない。すなわち、自民党がそれまで党是としていた自主憲法制定を目指しての憲法改正やスパイ防止法制定など、安倍晋三政権が長きにわたって取り組んだ国益中心の政策に対して、現政権がまったく目を向けず、むしろ野党に迎合し国益無視の政策を行ったことが、保守層のいら立ちと諦めを生み、その分、参政党が議席を伸ばしたと言える。
石破内閣は発足当初、「楽しい日本」をつくると唱えていた。実際に何が楽しいのか分からないが、安倍元首相は「美しい日本」をつくると語っていた。両者のキャッチフレーズ一つを見ても格調、品位に違いが分かる。
新しい自民党総裁は10月4日に誕生するが、日本をどのような国にしたいのか、祖国日本の過去と未来に対するしっかりとした見識を持つリーダーが総裁に就任しない限り、自民党の議席は今後も参政党に流れていくだろう。
(湯朝 肇)





