読者を驚かす見出し
自民党総裁選が始まった。この一大政治イベントは週刊誌の力量の見せどころでもある。新聞が表向きだとすれば、週刊誌は舞台裏、本音をズバッと書ける。どれだけ他にはない切り口で読者を唸(うな)らせるか、ポンと膝を打たせるかが勝負だ。
5人が立候補したが、各誌を見ると既に「小泉対高市」の戦いになるとの見方が大勢になっている。週刊新潮(9月25日号)は「早くも両陣営に異変」の記事を載せた。何が「異変」なのかといえば、小泉進次郎農水相陣営に加藤勝信財務相が選対本部長として加わったこと、高市早苗前経済安全保障担当相が「姿を見せない」でいることだ。多分、これくらいしか書くことがなかったのだろう。「小泉」「高市」の文字が誌面で躍る、それだけの記事ともいえる。
週刊誌だったらこれくらいの見出しを付けなければ、という見本が週刊ポスト(10月3日号)だ。「高市総理だけは絶対に阻止せよ!」である。
まず公明党の斉藤鉄夫代表。「保守中道路線の私たちの理念に合った方でなければ、連立政権を組むわけにはいかない」と高市氏を牽制(けんせい)した。同誌はこれを「前代未聞」と書く。自民党総裁選に他党が公然と“介入”したからだ。しかも連立を組む与党から。
次に日本維新の会の創設者である橋下徹・元大阪府知事。高市氏に対して「同じ考えを持つ人たちを引き連れて自民党から出たらどうだ」と離党を勧めた。しかも「中国に対してとかマッチョなこと言うけれども、ここで本当に高市さんがそれだけの勇気と覚悟があるんだったら」という挑発付きである。中国に勇ましいことを言う者は自民党を出ていけ、と党員でもない人から言われる筋合いはない。しかし逆に今の自民党は中国にものも言えないじゃないか、と皮肉っているともとれるが。
さらに同誌は「小泉氏の出馬そのものが高市潰しの仕掛け」であると指摘した。現在、世論調査(読売新聞13~14日実施)では高市氏(29%)が小泉氏(25%)を一歩リードしている。石破首相は小泉氏に「『今回は総裁選に出馬せず、次の次を目指してはどうか』と助言していた」という。小泉純一郎元首相も進次郎氏には「50歳まで出るな」と言っていた。
保守純化路線を阻止
石破氏は次の総裁に林芳正官房長官がなるのが望ましいと考えているようだが、それでは高市氏に勝てない、と党内では見ており、さらに「決選投票に持ち込んで勝つには、麻生太郎、菅義偉、岸田文雄という首相経験者3人が揃って推せる候補でなければ難しい」として小泉氏を担ぎ出した、と「石破側近」は同誌に解説したという。
ところで危機に陥った自民党を立て直すのに、どうして高市氏ではダメなのか。「自民党保守派のベテラン議員」は次のように分析する。
「自民党は保守から中道、リベラルまで考え方の違う議員がいる幅広い政党だ。(略)党内の保守派とリベラル派が“疑似政権交代”を繰り返すことで、新たな政権が生まれるたびに政権浮揚効果をもたらしてきた。しかし、高市氏が総裁になれば保守純化路線を取りかねない。(略)維新や国民民主など保守系議員を取り込む保守大再編を目指す可能性がある。(略)自民党は再生どころか空中分解してしまう」
自民党の“純化路線”は岩盤支持層が求めるところだ。それが高市人気にもなっている。だが、それでは保守からリベラルまで幅広い支持層を抱えてきた自民党“らしさ”が失われ、分解してしまうという危惧だ。
野党との関係が左右
しかし自民党は少数与党として、新たに連立相手を求めなければ政権を維持できない。だから次の総裁は連立を組める人物でなければならない。そこで「維新も国民も、参政党だって『一緒にやろうよ』進次郎総理誕生」となる。週刊現代(9月29日号)でジャーナリストの河野嘉誠氏が書いている。
「小泉総理待望論」が出てくるのは、小泉氏なら野党とのパイプ、話し合いのルートを最も持っているから、与野党とも政策のすり合わせができるから、である。自民党総裁選を左右するのは野党というのもあながち間違いではない。
いずれにしても、沈下していく日本を再び強く元気にできるリーダーを選ぶ総裁選であることを願う。
(岩崎 哲)





