立場一貫ウクライナ
ロシア軍がウクライナに軍事侵攻して3年半の年月が経過した。その間、ウクライナとロシアの両国の間で多くの犠牲者、負傷者が出た。関係国からはさまざまな停戦案、和平案が発表されてきた。
ウクライナのゼレンスキー大統領の立場は過去3年半、首尾一貫している。2014年にロシアに併合されたクリミア半島を含むロシア軍の占領地からの完全撤退だ。その主張は国連憲章や国際法上からみて正当性は十分あるが、軍事大国ロシアの「力」の前に残念ながらこれまで無力だった。
ゼレンスキー氏は「平和の公式」は22年10月11日、主要7カ国(G7)諸国の首脳に対し、ロシアの脅威を克服するために独自の和平案(平和の公式)を発表した。10項目から成る「公式」は、クリミアを含むすべての占領地からのロシア軍の即時撤退、ロシア軍の撤退と交戦の停止などを要求している。
それに先立ち、ロシアを支援する中国共産党政権は独自の和平案を作成し、ウクライナ戦争の仲介に乗り出したことがある。中国外務省は23年2月24日、ウェブサイトで12項目の和平案を掲載し、両国に紛争の「政治的解決」を求めている。ただ、台湾への武力攻勢を狙う中国の「和平案」だけに、国際社会からの支持はほとんど得られなかった。
硬直気味の和平外交は、トランプ米大統領が今年8月15日、ロシアのプーチン大統領を和平交渉の場に呼び出すことに成功したことで動きがみられだした。ウクライナ側にも休戦に応じる姿勢が出てきた。ゼレンスキー氏はウクライナの「安全の保証」が得られるならば、ロシア側と領土問題を話し合う用意があることを示唆している。ゼレンスキー氏にとって多分、心痛い妥協だろう。
露は現状凍結を要求
一方、ロシアのプーチン大統領はトランプ大統領とのアラスカでの首脳会談でロシア側の要求を再度明確にしている。ウクライナのドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)の完全な併合、へルソン州とサボリーシャ州は現状の国境線で戦闘凍結。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)の加盟を拒否する一方、ウクライナ側が主張している国境線の安全保障については、欧米諸国の関与を容認するほか、ロシア語の公用語化、ウクライナのロシア正教の活動の承認を求めている(後日、その内容は修正され、一部変容された)。
宗教界からも和平案が飛び出してきた。バチカンのウクライナ問題担当の教皇特使マッテオ・ズッピ枢機卿は「ウクライナ紛争において、人々が現在、目指すべきは『公正な平和』よりも『受け入れられる平和』だ。平和と正義は、生き残るために互いを必要とするシャム双生児のようなものだが、必ずしも同じ速度で成長するわけではない」と説明し、「今こそ外交が再び介入すべき時だ。トランプ大統領の和平イニシアチブは大きな変化をもたらした。平和には少なくとも3人の当事者が必要だということが分かった。2人の反対者同士では十分ではないのだ」と述べている(ドイツのカトリック通信9月1日)。
ちなみに、ゼレンスキー大統領はフランスの週刊誌「ル・ポワン」とのインタビューで、「朝鮮戦争シナリオ」について言及し、「朝鮮戦争では、真の和平協定は締結されなかったが、韓国はその後、経済的に繁栄した。朝鮮戦争の休戦モデルは検討の余地がある」と主張し、注目されたばかりだ。
交渉は時間との闘い
いずれにしても、和平交渉を開始する前に、停戦を実現することが急務だが、プーチン氏はロシア軍に9月攻勢を命令したという情報が流れている。ロシア側には目下、停戦に応じる考えはない。「受け入れられる和平」のための選択枠も次第に狭められてきている。ロシア軍の複数の無人機がNATO加盟国ポーランドの領空を侵犯したばかりだ。和平への外交交渉は時間との闘いとなってきた。(小川 敏)






