寛容性の放棄で混乱
トランプ旋風が今、世界を覆っている。関税とウクライナを巡って各国政府がその対応に追われているのが実情だ。アメリカ・ファーストを掲げるトランプ米政権。自国優先の戦略をそのまま地で行く政策は分かりやすいといえば分かりやすいが、これまでの外交交渉の慣習や常識からみると理解しにくい面がある。果たしてトランプ大統領はどのような世界地図を描こうとしているのか。
こうしたトランプ政権の思惑とその影響力を経済2誌が追究している。一つは、週刊エコノミスト(8月12・19日合併号)の「トランプの破壊力」。もう一つが週刊東洋経済(7月26日号)の「トランプ時代の新・世界地図 解読! 地政学」である。
トランプ政権は就任直後から中国やメキシコ、カナダなどに対し、高い関税を課すとしていたが、4月に入って相互関税を打ち出し、日本に対しても関税を24%にすると表明。その後、日本からは赤沢亮正経済再生担当相が渡米して交渉を重ね、7月23日に相互関税15%とすることで合意した。その後、欧州連合(EU)との間でも日本と同率の15%で合意するなど、ひとまず落ち着いた状況をつくりだしている。
これに対してエコノミスト誌は、トランプ政権の関税以外の政策を含めて次のように酷評する。「(トランプ大統領の)権限乱用で米国のソフトパワーが壊れた。…ソフトパワー下落の影響は長期的に続き、関税や安全保障環境が大きく変化すれば同盟国との関係にもひびが入る恐れもある」(中林美恵子・早稲田大学教授)とする。
ここで言うソフトパワーとは、それまで多くの移民や留学生を受け入れてきた米国の寛容性を指すのであろうが、そうした寛容性をトランプ氏は持ち合わせておらず、むしろ、寛容性を放棄することで世界を混乱させていると訴える。
帝国主義時代に回帰
一方、世界貿易統計から米国の国力低下を見る。戦後、世界の国内総生産(GDP)の半分以上を占めていた米国だが、2024年の同国の総輸入額は3・3兆㌦(488兆円)で、世界総輸入額(24・8兆㌦)の13・3%にすぎず、米国が経済で支配していた時代は過ぎ去り、「数量の経済規模」から見た「グローバリズムは止まらない」(藻谷俊介スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役)と説く。
すなわち、トランプ政権が10%を超えるような関税引き上げをしても「一般の人々が少し古い感覚で恐れるほど景気には悪影響はないような気がしている」(藻谷氏)と分析する。
ただ、ロシアが北朝鮮や中国から支援を受けて隣国ウクライナを侵略し、EU諸国と対峙(たいじ)している現状を見るとき、そこに仲裁に入ったトランプ大統領の立ち居振る舞いに世界が翻弄(ほんろう)されている。そこで問題になるのが、今後の世界地図の構図である。
それについて東洋経済に登場した垂(たるみ)秀夫・前駐中国大使の見方が興味深い。「トランプ氏の再登場で、米中ロの新たな『三国志演義』が始まった。3つの大国が自国の利益だけを追求し、法の秩序を省みない」と指摘、さらに「トランプ氏の関税戦は、明らかにWTO(世界貿易機関)違反であるし、ロシアのウクライナ侵攻は帝国主義時代に戻ったかのようだ。中国は現在の国際秩序は合理的でも公正でもないとして、秩序再構築の必要性を訴えている」と語り、米中露の“三国志”時代がやってきたと強調する。
日米同盟の強化必須
言い換えれば、これまで第2次世界大戦の戦勝国でつくられてきた国連の常任理事国5カ国のうちの米中露の3カ国が、世界平和など眼中になく、軍事力を背景に自国の利益を求めて露骨に力で推し進める状況をつくりだしている。これは戦後の世界をつくってきた国連体制そのものの崩壊が始まったとも言える。
そうした中で日本が取るべき方向と言えば、一つには中国の西太平洋覇権進出を阻止すべく対策を強固にすることは論をまたない。そういう意味では、国力が低下したとはいえ、米国との同盟強化は必須事項なのである。(湯朝 肇)






