トップオピニオンメディアウォッチ読売の「首相退陣へ」は誤報か、文春の「読売の“謝罪”」は事実無根か

読売の「首相退陣へ」は誤報か、文春の「読売の“謝罪”」は事実無根か

読者への説明はなし

7月23日夕「石破首相退陣へ」の号外が駅頭で配られていた。読売新聞である。翌24日の朝刊でも「月内にも退陣を表明する方向だ」と報道した。毎日新聞も若干違うところがあるが同様の報道を行っている。だが石破首相は「そのような発言をしたことはございません」と完全否定。7月末が過ぎ、8月末になろうとしている今でも一向に退陣する気配はない。

普通、これは「誤報」と言う。一寸先は闇で一夜明ければ情勢が変わる政界のことだから、結果的に誤報となってしまうケースもあるだろう。とはいえ、報じたままで何の説明もないのは読者を置き去りにしているとしか言いようがない。

サンデー毎日(8月31日号)のコラム「青木理のカウンター・ジャーナリズム」で青木氏はこれを「もはや完全なる誤報と言うしかない」と断じた。そして「誤報が生じたらすみやかに訂正し、場合によっては経緯を説明して謝罪する」必要があると指摘している。当然のことだ。

SNSを目の敵にする「オールドメディア」がメディアたる所以(ゆえん)は、間違いがあれば検証し訂正し、それを自ら伝えるところにある。それが「無責任なSNS言辞との決定的違いであり、信頼をつなぐ重要な矜持(きょうじ)でもある」と青木氏は言う。

かつて「劣等民族」発言でTVコメンテーターを降りた青木氏だが、「不適切だった」として謝罪し発言を撤回して“矜持”の一部を示したことがあった。

面会自体は否定せず

それを読売側も少しだけ示したらしい、と報じたのが週刊文春(8月28日号)「石破首相強気のウラに読売の“謝罪”があった!」の記事だ。示したのは読売新聞グループ本社の山口寿一社長。「八月四日からの週」に「山口氏は石破首相を前に、謝罪の意を表明したという。『その場で山口社長は、首相に『政治部はアンタッチャブルで、自分では制御がきかなかった』などと言って、『退陣へ』報道について釈明をした」と同誌は書いている。

社長自らが釈明して、首相に謝罪しているのなら、紙面でも読者に経緯を説明し、誤りであったと伝えるべきではないだろうか。その報道がないのは、新聞が首相に「誤報」で謝るなどというみっともないことを公にしたくなかったのか、はたまた謝罪自体がなかったかだ。

同誌の「会ったのか、謝ったのか」の問いに対して読売側は「いずれの質問にも答えられません。ただし、謝罪した事実はありません」と回答している。「石破首相にも面会について訊ねたが、締め切りまでに回答はなかった」。つまり両者とも会ったこと自体は否定していないのだ。

文春が記事を出すと伝えたのだろう、同誌の電子版が公開される20日付の朝刊で読売は「本社、週刊文春に抗議書」の記事を載せた。「読売新聞グループ本社は(略)、事実無根の記事で名誉が著しく毀損(きそん)されたとして、抗議書を発行元の文芸春秋に送付した」というものだ。

続けて「事実無根」の部分に該当するのだろうが、「山口社長が記事にある発言、ないしこれに類似した発言をした事実は全くなく、謝罪の意を表明した事実はない」としている。これを見ると、内容に「謝罪」はなかったことが強調されている。しかも読売は「抗議」しているだけで、「訴える」とまでは強く出ていない。

読売の「退陣へ」にしろ、文春の「謝罪した」にしろ、何が事実なのか、読者には一向に分からない。「オールドメディア」の矜持はどこへ行ったのか。文春は書く以上、確証があって誌面化したのだろうし、そもそも読売は「退陣へ」の情報の裏を取った上で、号外まで出して首相が席を降りる決断をしたという重大事を伝えたはずだ。両者は別人のことを書いているわけではない。石破首相について書いているのだ。そしてその内容が180度違っている。首相が一つの口で二つのことを言っているわけではないだろうに。

決着を知りたい読者

どちらが折れるのか、それともこのまま押し通していくのか。最近はネットもあって情報の賞味期限が短い。読者の忘却に任せるのだとしたら、矜持もへったくれもない。読者は決着を知りたい。

(岩崎 哲)

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