生物学的な男女の差
「地図が読めない女」「女子は数学が苦手」とよく言われる。その理由については男女で脳の構造が違うから、とかつては説明された。しかし、いつ頃からか、それは偏見で女子に地図や数学に苦手意識を植え付ける社会環境に問題がある、と言われるようになった。反論すると、ステレオタイプの女性観と批判され生物学的なことを口にすることはできなくなっていたが、ここに来てこの潮流に変化が見えだした。
文部科学省が全国学力テスト(小学6年と中学3年対象)を公表した。算数・理科は正答率に男女で大きな差はなかったが、好き・得意と回答した割合は女子の方が少なかった。その要因について同省の担当者は「周囲の影響で生じるアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)や、生物学的な男女差などが複合した結果ではないか」と述べている(世界日報8月1日付)。
このコメントに、筆者は「オッ」と思った。複合的要因の一つとはいえ、官僚が生物学的な男女差に言及したことに驚いたのだ。これまでは、性差を否定的に捉えるリベラル思想の浸透で、社会問題の領域における男女の違いに生物学的観点を持ち出すのはタブーだった。
思想的立ち位置露呈
前置きが長くなったが、先の参議院選挙で生物学的な事実を口にして物議を醸した政治家がいた。「日本人ファースト」を掲げて伸長した参政党代表の神谷宗幣。一部マスコミから、街頭演説で「高齢の女性は子供が産めない」と述べたことを問題視されたのだ。
投開票日(7月20日)夜のテレビ朝日「選挙ステーション」キャスターの大越健介もこの発言を取り上げた。リモート出演した神谷に「私の見立てですが」と断った上で、「この発言、『女性は子供を産んで、家に入って子育てに専念すべきだ』という固定観念に縛られているのではないか」と迫ったのだ。
神谷を支持するかどうかはさておき、まずは街頭演説の真意を知る必要がある。第一声(3日)で、男性や高齢女性は子供を産めないと述べた後、次の演説が続く。「だから、日本の人口を維持していこうと思ったら、若い女性に『子供を産んでみたいな』とか、『子供を産んだほうが安心して暮らせるな』という社会状況をつくらないといけないのに、働け、働けってやりすぎちゃったわけですよ」(月刊『Hanada』9月号掲載の本人の論考より)
これを見れば、「高齢の女性は……」を、女性差別と捉える方がおかしいと分かる。なのになぜ「固定観念に縛られている」という発想になるのか。筆者には、大越の方が生物学的な性差からの解放を目指すフェミニズムやジェンダー理論が刷り込まれて、無意識の思い込みに陥っているように思えた。
図らずも自分の思想的な立ち位置を露呈させたと言っていい大越だったが、自己矛盾に陥るというミスを犯した。「ある種の歯切れのいい発言によって、人々を怒りとか不安とか、負の感情に火を付ける。これはある種のポピュリズムの主張ではないか」と神谷に問うた。
神谷は「(街頭で)関心のない人に立ち止まって聞いてもらうには、短く分かりやすい言葉でポンと言わないと街頭演説は成立しない。街頭でやる主張はいっぱいやってきたので、これからは街頭でやる主張は減らそうと思う」とかわした。
投票者蔑むかの質問
後で大越は「ポピュリズムというのはいささか失礼な質問だったかもしれないが」と付け加えたが、神谷の演説を聞いて同党に投票した有権者はどう感じたろうか。ポピュリズムに煽(あお)られた浅慮の人と蔑(さげす)まれたと受け取り、怒りを覚えた人が少なくなかったであろう。ポピュリズムを語るなら、保守だけでなくリベラルにもポピュリズムがあることを忘れるべきでない。
参院選で参政党が伸長したのは、生物学的な事実を口にするだけで性差別と批判するリベラルなマスコミや政治家に辟易(へきえき)している有権者がかなり存在することを示すものだった。テレビにおける大越の発言は、同じような思いを抱く視聴者を同党支持に向かわせた可能性がある。(敬称略)(森田清策)





