トップオピニオンメディアウォッチ中東は「パクス・イスラエリアーナ」に向かうのか―イスラエル保守系紙

中東は「パクス・イスラエリアーナ」に向かうのか―イスラエル保守系紙

著しくイラン弱体化

「パクス・イスラエリアーナ(イスラエルによる和平)」。イスラエル主導で地域の秩序や平和を維持することを指す。1990年代のパレスチナ自治政府樹立につながった「オスロ合意」の際に一時、この文言が使われた。2020年の米トランプ政権によるイスラエルとアラブ諸国との国交を樹立させた「アブラハム合意」の際にも、イスラエルの地域への影響力の拡大という文脈で使用された。

今回はイスラエルによるイラン攻撃を受けて、イランが著しく弱体化していることが直接の要因のようだ。

イスラエルの保守系紙エルサレム・ポストは18日、「イスラエルの地域大国としての最初の試練」と題する記事を掲載した。これは、イスラム教少数派で親イスラエルのドルーズ派がシリア南部でベドウィンと政府軍から攻撃を受けたとして、シリア領内を攻撃したことを受けたものだ。

記事は、「私たちが目撃しているのは、パクス・イスラエリアーナの第1章なのか」と指摘、シリア攻撃が今後の域内でのイスラエルの覇権拡大への足掛かりになる可能性を指摘している。

シリアでは昨年末にアサド政権が崩壊した。イランの民兵組織を支援し、イスラエルと対峙(たいじ)するとともに、レバノンのイラン系武装組織ヒズボラへの武器などの支援供給の経路となってきた政権が崩壊したことでイランの地域への影響力は大きく減退した。またレバノンの武装勢力ヒズボラは、イスラエルに最高指導者を殺害されるなどし、脅威は大きく減少した。ヒズボラは、イランがイスラエルに対抗するために1982年に設立した組織で、レバノンで最大の武装勢力だ。

その上、ペルシャ湾岸のアラブ諸国とは和解が進む。経済的実利をとり、「アラブの大義」は過去の遺物だ。

近年イスラエルにとって最大の脅威となっていたパレスチナ自治区ガザのイスラム勢力ハマスは、イスラエルの攻撃を受け息も絶え絶えだ。すでに「イスラエル一強」といわれるなど、地域内でのイスラエルの一人勝ちを伝える報道が見られるようになった。

影響力拡大の契機に

イスラエルは先月、イランを攻撃、防空網、核施設などを破壊した。米国の援軍もあって、核開発は大きな被害を受けたとみられている。

ポスト紙は、「この戦争は軍事的な成功以上に、後戻りのできない転換点となった」と、イスラエルの影響力が大幅に拡大する契機になると指摘。「イスラエルはもはや、生存のために戦う強靭(きょうじん)な民主主義国家ではなく、中東の覇権国となった」と強調した。

これが実現すれば、周辺を敵国に囲まれ、独立戦争を含む4度にわたり自国の存続のため戦ってきたイスラエルにとっては歴史的な転換点となる。

シーア派に由来するドルーズ派は、ユダヤ人社会に協力してきた歴史がある。イスラエルのアラブ系イスラム教徒に兵役が認められていない一方で、ドルーズ派は兵役が認められるなど、イスラエル社会から信頼を獲得してきた。

ポスト紙は、ドルーズ派を守ることは、「戦略的に必要であり、道義的義務でもある」と指摘する。シリアのシャラア暫定政権は西側にも接近するなど、穏健な姿勢を示しているが、「ポスト・アサド連合のようなイスラム主義派閥のなすがままにしてしまうことは、イスラエルの玄関口に新たなジハード主義の混乱の波を招くことになる」とシリア新体制への警戒心は依然、強いようだ。

道徳的指導力が必要

ポスト紙は、「イラン攻撃は、イスラエルに対する認識と、イスラエルが今後取るべき行動の在り方を一変させた」「イスラエルは現在、周囲を形作る力を持っている」とイスラエルの域内での地位の向上を強調する。

同時に「新しい中東が繁栄するか崩壊するかを決定する道徳的リーダーシップ」の必要性を訴える。ドルーズ派防衛はそのための一歩ということだ。

一方で、ガザでは食料支援を断たれ、家を破壊された住民らが逃げ惑う。これは、イスラエルの「道徳的リーダーシップ」とは矛盾しないのか。ガザ情勢は、イスラエル極右が夢見てきたパレスチナの「民族浄化」へと邁進(まいしん)しているようにも見える。(本田隆文)

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