
チベット文化尊重を
9年前の1月9日、来日したチベット亡命政権のロブサン・センゲ主席大臣(当時)が文京区の護国寺で記者会見を開き、取材したことがある。
センゲ氏は「ヒマラヤ地域は東西2500㌔、南北1000㌔に及び南極、北極に次ぐ第3の極だ。チベットには4万3千もの氷河が存在する。すでに氷河の50%が溶け、2050年までに残った氷河の50%が溶けるともされる」と述べ、水危機を訴えた。
チベットは黄河や揚子江だけでなく国際河川のインダス、ガンジス、メコン、イラワジなどの源流でもある。これらの河川に水を提供してきたのは流域の降雨だけでなく、チベットの氷河が貢献してきた。こうした水を共有してきた歴史があるが、すべてを欲しがる中国が上流域でダムを建設していることへの危機を喚起したのだ。
水の危機以上に深刻なのが、中国の同化政策によるチベットの精神世界だ。
チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世は、後継者となる15世選びについて、自らの死後に生まれ変わりを探す「輪廻(りんね)転生」に基づく制度の継続を表明し、中国共産党政権の介入を認めない考えを強調した。
この問題を社説で論じたのは産経と本紙だけだ。
産経は11日付主張「ダライ・ラマ法王 中国は『輪廻転生』尊重を」で、「中国は自らが推す人物でなければ『ダライ・ラマ15世』とは認めない方針だ。だが、チベットの人々が正統性のない『偽ダライ・ラマ』を仰ぐはずがない。中国は非人道的な同化政策を廃止し、チベットの宗教や文化を尊重すべきで(中略)日本を含む国際社会は14世を支持し、中国の介入を許すべきではない」と総括した。
恐怖下での信仰強いる
今年は1965年に中国がラサを区都とするチベット自治区を設立してから60年目となる節目の年だ。この還暦と等しい年月で、同主張は何が起きたのか検証している。
すなわち「中国は漢民族を大量に移住させるとともに、チベットから独自の文化や宗教を奪う同化政策を進めてきた。その結果、仏教寺院などから14世の肖像画や写真が撤去され、代わりに習近平国家主席の肖像画や写真などが掲げられた。寺院には治安要員が配備され、監視カメラも無数に設置されている。チベットの人々は徹底的に管理された、恐怖下の信仰を強いられているのだ」とリポートしている。
一方、弊紙11日付社説「ダライ・ラマ後継 中国の介入を断固排除せよ」では、「1989年にダライ・ラマに次ぐ地位の指導者パンチェン・ラマ10世が死去した際、ダライ・ラマ14世は当時6歳の少年を指名するが、少年は行方不明となり、中国政府は別の少年をパンチェン・ラマ11世に認定した。先月にはこのパンチェン・ラマ11世が習近平国家主席と面会し、習主席は宗教の中国化の促進を要望している」と警鐘を鳴らした。
宗教的権威利用図る
その上で、「ダライ・ラマ後継を巡って、中国政府は自分たちに都合のいい人物を国内から選定し、チベット統治に利用しようという思惑がある。中国政府は『宗教はアヘン』というマルクス主義の考えに基づき、宗教の本質的な価値を認めず、宗教への侮蔑的な姿勢を示している」とし「中国が亡命政府に圧力を加え、後継選びに介入してこないよう、国際社会は一層厳しい監視の目を注ぐべきである」と締めくくった。
毛沢東の“輪廻転生”を自負する習近平国家主席は、地政学的要衝であるチベットを統治する上でダライ・ラマ15世の権威を利用したい意向だが、宗教的権威を政治的に決めてもチベット人の誰も本心で承服することがない矛盾を無視するところに共産党政権の限界がある。
(池永達夫)






