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自治体に巣くう企業の実態取り上げ安易な地域振興策諫める東洋経済

県外企業に全て委託

昨年4月、民間有識者で組織される「人口戦略会議」が発表した「地方自治体『持続可能性』分析レポート」によれば、現在、全国1729ある自治体のうち744の自治体が2040年までに消滅する可能性があると報告した。もちろん、それらの自治体が完全になくなるというわけではないが、この報告は自治体関係者に大きな衝撃を与えたとされる。事実、多くの自治体は、この報道がなくても、生き残りを懸けてその方策を模索し対策を練っているところだ。

そうした中で、週刊東洋経済(6月21日号)が自治体に巣くう企業の実態を取り上げた。「告発 喰われる自治体」と題された特集の見出しには、「企業に蝕まれる自治体の悲鳴」とある。人口減少を食い止めるため自治体はあの手、この手を使って住民流出を止めようとする。県外からの知恵や資金を借りてでも街の活性化を図りたいというのは人情というもの。東洋経済は、そうした自治体のニーズにコンサルタントなどの企業が入り込み、自治体を食い物にするというのである。

特集の中で取り上げられた自治体は三重県四日市市、千葉県流山市、浦安市、新潟県三条市、愛知県豊橋市、神奈川県茅ヶ崎市の6市。このうち茅ヶ崎市の場合を見ると、地方創生のため地元経済界が15年かけて構想を立案してきた「道の駅」設置案を、大阪を拠点とするリース大手企業の大和リースが提案するプロジェクトにいとも簡単に食われてしまったというのである。大和リースの提案は地元案よりも売り上げ、雇用規模など10倍近い成果を上げるというものだった。ただ、地元企業が腑(ふ)に落ちなかったのは、道の駅の設計は宮城県仙台市の企業、運営は栃木県の企業ファーマーズ・フォレストなどプロジェクトのメンバーは県外企業が中心となったこと。

道の駅は、今年7月にオープンした。これについて、地元企業で中心に動いたメンバーの一人は、「(運営会社が)なぜ栃木県の会社なのか、今もわからない。観光客向けの価格水準では、地域住民は寄り付かないだろう。…地元の企業と連携してこそ、将来を見据えた交渉ができる。それが(行政には)理解されていない」(石田智・茅ヶ崎イシラス代表)と語る。

訴訟問題に発展の例

一方、新潟県三条市の場合は、19年に東北地方のコンサル企業ワンテーブルに中国本土向けヘルスツーリズム事業を総予算5000万円の新規事業として随意契約で委託したという。このツアーの狙いは中国の富裕層を招き、市内の病院で人間ドックを朝終えた後に、周辺の歴史観光を楽しんでもらうというもの。ところが、翌年から襲った新型コロナ禍でツアーは中止、委託費は満額前払いだったため、現在は委託費の全面返還を巡る訴訟問題に発展している。問題なのはこのツアーを企画し請け負った企業が医療とは無関係の会社であったこともさることながら、中国の富裕層に焦点を当て呼び寄せ、安易に“金儲(もう)け”しようという魂胆は、地域の振興とは程遠いものであることだ。

ところで、こうした自治体の安易な地域振興策が失敗するケースは枚挙にいとまがない。一例を挙げると、北海道では未(いま)だに語り草になっているのだが、1988年、横路孝弘知事の時代に道の肝煎り行われた「世界・食の祭典」。東京の広告会社の企画に乗り、杜撰(ずさん)な運営の結果、約90億円の赤字を計上し、「史上最悪の地方博」というレッテルが貼られた。

地元との意識共有を

地方創生2・0を掲げる石破茂首相は、今年4月から中央官僚を地方に派遣する「地方創生伴走支援制度」を始めた。それまでの実務経験を積んだ国の職員が、副業的に地方の行政に関わって地方行政に寄り添うという趣旨だが、正直言ってこれこそ中途半端な策であることは否めない。

東洋経済は次のように警告する。「(外部から)営業にやってくるコンサルに任せ、補助金の取り方を教えてもらい、箱モノを建てたはいいが、あとあと維持費の負担に耐えられなくなり地獄を見る―。当事者の覚悟がないと、こういう顛末になる」(木下斉・まちづくりビジネス事業家)。地域の素晴らしさ、長所をしっかり見極め、地元企業・住民と意識を共有して街づくりを進める基盤が何よりも重要で、それが優先されなければならないことは言うまでもない。(湯朝 肇)

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