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「令和の米騒動」の正体明かすも根本的解決策は示せぬNW日本版

三重苦抱える米農家

「令和の米騒動」の正体。「需要に対して供給が不足したから」だった。「それ以上でもそれ以下でもない」と言い切るのは三菱総合研究所研究理事の稲垣公雄氏だ。ニューズウィーク日本版(6月24日号)のスペシャルリポート「コメ高騰の真犯人」に書いている。

メインの記事は経済評論家の加谷珪一氏による「日本を揺るがす『コメ高騰』を構造分析する」で、ここでも「コメ価格が上昇した最大の理由は、消費の増大に対して生産量が追い付いていないからである」と指摘している。

なぜ、生産量が少ないのか。普通に想起するのは「減反」である。減反というと作れるのに価格を維持する(供給を抑える)ために生産せず、その代わりに補助金を支給することだ。ブレーキを踏み過ぎて、スピードが維持できず車が止まってしまったようなもので、これでは本末転倒である。

なぜ価格を維持する必要があるかといえば、米作農家の収入を維持するためである。コメだけは普通の商品の需要と供給の関係にない。これは江戸時代の米本位制に由来し、また日本人の主食であること、さらに農家保護などが絡み合ってつくり出された構造であるという。

だが、その一方で米を巡る環境と条件が変わってきていた。米作農家の減少とコメ消費の減少である。農家は従事者の高齢化と後継者不足、さらに米を作っても儲(もう)からないという三重苦に見舞われている。あと10年もしたら米農家が消えているかもしれない。

複雑化の原因、農政に

余談になるが、筆者の知人に全くの素人から米作農家を始めた人がいる。海外生活から戻ってきて、出身地でもない地方に来て、伝手(つて)もないところから、田んぼを借りて米作りを始めた。今では7町歩で米を作っている。「株式会社化はどうなのか」と聞いてみた。別の知人でゼネコンを辞めてきて地方で株式会社化を進めていた人間がいたからだ。

「会社化のデメリットは倒産したら、それでその土地は放棄されるということです。数年耕作しなければ、再び水田にしようとしても難しい。零細農家だったとしても、そこが(田んぼを)維持していくことの方が安定している」との返事だった。元ゼネコンの人は結局、事業化には至っていない。

両側面があるにしても、コメ農家を巡って試行錯誤がなされているのが現状だ。しかし、これらは今のコメ不足や米作農家が抱える課題を短時日で解決できるものではない。より根本的に日本の米作りを解決するには何が必要なのか。

同誌の記事を読んでみても、非常に複雑である。コメ作りを複雑にしてしまったのはひとえにこれまでの農政である。そして何をすれば問題が解決されるのか。供給量が少なくて生じた問題ならば、増やせばいいわけだが、それで価格が下がれば、農家の収入が減り、結果的に離農が増えていき、さらに生産も減っていくという悪循環が簡単に想像できる。

「輸出に活路」疑問も

そこで「コメ輸出にこそ活路あり」というのはキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏だ。減反政策は「本来の生産量約1000万㌧を650万㌧程度に抑えている。減反をやめて350万㌧を輸出に回していれば、輸出量を調整するだけで国内の供給不足や米価の高騰は生じなかったはずだ」というのである。

しかもコメ不足が生じても「輸出用のコメを国内に回せば」よく、だから「平時に輸出していたコメは無償の備蓄米の役割を果たす」というわけだ。一見いいアイデアに思える。しかし実際に農家に生産を増やす力があるのだろうか。後継者問題など農家の将来が不安定な中で、今、生産を増やしていくという選択肢が取れるだろうかという疑問は残る。

で、肝心の政治はというと、週刊新潮(6月26日号)は小泉進次郎氏が農水相に就任してから「政府備蓄米の放出という火消しの水を矢継ぎ早に浴びせ、米の店頭価格はガクンと下がった」とし、これを「イリュージョンのような“小泉劇場”」と書いている。イリュージョンでは日本のコメ作り問題は解決しない。出版社系の週刊誌各誌も真正面から米騒動を捉えて日本農政にメスを入れてほしい。(岩崎 哲)

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