予想より速い人口減少
女性一人が生涯に産む子供の平均数に相当する合計特殊出生率が昨年、過去最低の1・15となり、生まれた日本人の数も初めて70万人を下回った。人口維持には2・07は必要だと言われている。日本の人口減少は当分続き、20年以内に1億人を切ることが予想される。
島国で狭い日本だ。人口は減った方がいいという意見もある。しかし、人口減少スピードが予想以上に速い上、人口構成が偏ったのでは、社会制度が崩壊してしまう。
子供の数減少に暗澹(あんたん)たる思いに駆られる中、テレビ画面に突如、5人きょうだいの幸せな家族風景が映し出されると、ほっこりする。そして、人口減少を伝えるニュース番組で「お金がかかるので赤ちゃんをつくるのに躊躇(ちゅうちょ)してしまう」と語る若者と、子供を数多く産んで幸せな夫婦とでは何が違うのか、と考えさせられる。
NHK「鶴瓶の家族に乾杯」(月曜夜から)は「ステキな家族を求めて日本中を巡るぶっつけ本番の旅番組」というのがキャッチフレーズ。今月8、15の両日、落語家の笑福亭鶴瓶が俳優の鈴木福をゲストに迎え、広島県東広島市を旅した。
8日放送で、最初に出会った家族(父親は料理店を営む)が5人きょうだいだった。小学5・4・2年と3歳の双子という構成で、鶴瓶は「うまいこと産んだな」。そして、20歳の福に「そっちは何人きょうだい?」と聞くと、「4人です」。
5人きょうだいは、昨年末の放送にも登場した。和歌山県内で梅農家を営む夫婦だったと記憶する。40歳前後の母親は5人きょうだいの中で育ったので、子供が多い家庭を築きたかった、と語っていたのが印象的だった。こんな番組を見ていると、出生率1・15が嘘(うそ)のように思えてくる。
夫婦の「完結出生児数」(結婚持続期間15~19年の初婚同士の夫婦の平均出生子供数)というのがある。こども家庭庁の資料によると、1970年代から2002年までは、この数が2・2人前後で安定していた。05年以降、減少傾向となり、21年には1・90人に減っているが、少子化の要因は未婚化・晩婚化と言われるから、若く結婚した夫婦に限れば、子供の数は結構多いのである。
心育てることが先決
ならば、若いうちの結婚促進が最も効果的な少子化対策となるが、それは個人の価値観の問題だから、政府には手が出せない。このため、子育て支援や働き方改革など子供を産み育てやすい環境の整備に力を入れてきたが、出生率の低下・人口減少に歯止めがかからない現状を見れば、その効果は推して知るべしだ。この事実は、少子化問題の本丸はお金の問題ではなく、結婚し子供を産み育てたいというモチベーション、つまり心をいかに育てるかにあることを示している。
では、どうするか。ホリエモンこと堀江貴文は自身のユーチューブチャンネルで、こんなことを言っていた。
「こんなに豊かになって金銭的にも余裕があり、余暇があってレジャーがいっぱいあるにもかかわらず、子育てを選んでいる人たちがいる。だから、そういう“子育て好き族”の遺伝子が優位になって、どこかで(人口減少は)底を打つと思う」
前出した5人きょうだいの家族は、経済的に恵まれているから、それが可能になったのだという反論が聞こえてきそうだ。もちろん、子育てのコストは対応すべき課題だ。しかし、子供への愛情が働くモチベーションになることもある。また「子どもをもつと本当にそれほどのコストがかかるかといえば、現実には、産んでしまえばなんとかなるものだ」という、長谷川眞理子(人類学者)のような識者もいる(月刊『Voice』2023年6月号)。
幸せ伝える役目期待
幸せな大家族の中で育てば、自分も幸せな家族を築きたいと願う子育て好き族が生まれ命の循環ができる確率が高い。ただ、それを家族だけに任せておかないで、5人きょうだいとは言わないまでも、3人くらい産んでも育てられるし、お金に換えられない幸せを味わえるよ、というようなポジティブな情報を伝えることは、少子化に歯止めをかける上でテレビに期待される役割だろう。(敬称略)(森田清策)