多様なルートで送金
パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスへのイスラエルの攻撃は依然、続いている。ネタニヤフ政権はハマスの殲滅(せんめつ)に躍起だが、軍事力で破壊するだけでは不可能だろう。イスラエル紙エルサレム・ポストは6日、2023年10月7日にイスラエルで発生したハマスによるイスラエル急襲について、「このような広範で組織的かつ残虐な攻撃」が可能になったのは、「殺戮(さつりく)的なイデオロギーとそれを支える資金にある」と指摘した。その上で、「(急襲に対する)国際的な非難、制裁にもかかわらず、これらの組織の資金調達システムはほとんど中断されることなく機能し続けている」と警告した。
ハマスは当初、急襲によって広範な反イスラエル蜂起を引き起こすことを狙っていたとみられている。だが、その目論見(もくろみ)は不発に終わった。それどころか、イスラエルからの激しい攻撃を今も受け続けている。大規模な人道問題が発生し、イスラエルが連日、国際社会から非難を受けているのは報じられている通りだ。
ハマスがイランの支援を受けていることは周知の事実だ。イランはイスラム教シーア派国家であり、ハマスはスンニ派のイスラム組織「ムスリム同胞団」を母体とする。数十年前なら両者の連携など考えられなかったが、共通の敵を倒すために手を取り合った。
エルサレム・ポストは、「西側の推計によると、イランは年間約7億㌦をレバノンのシーア派武装組織ヒズボラに、数百億㌦をハマスに、現金入りのスーツケース、レバノンの両替商、シリアの銀行を通じた送金、外交官の口座など間接的なルートを通じて送金している」と指摘している。
英タイムズ紙によると、欧州で活動する大使、外交官が現金を直接ガザとレバノンに送金する役割を果たしているという。
一角を担う人道支援
人道支援もその一角を担っている。西側の非政府組織(NGO)、寄付、慈善団体も集金マシンの一部だ。イタリアの非営利団体「パレスチナ人民支援協会」が「人道プロジェクト」の名目で集めた約400万㌦がガザ、レバノンへの資金援助、武器調達、テロリストの家族支援に充てられていたと米紙ニューヨーク・ポストは報じた。
暗号資産(仮想通貨)も「テロ組織にとって特に効果的なツール」になっているという。エルサレム・ポストは、「米議会調査局の報告書によると、20年以降、ハマスはビットコイン、イーサリアムなど暗号資産の利用を大幅に拡大し、ソーシャルメディアでデジタルウォレットを開設し寄付を募るキャンペーンを展開している」と報じた。当局による対策も講じられているが、オフラインのため追跡できない「コールド」ウォレットを使用するなど、手口は高度化しているという。
イスラエルのニュースサイト、アルッツ・シェバは、レイター駐米イスラエル大使の発言として、「ハマスがガザに流入する人道支援物資を組織的に盗み取っている」と指摘、(人道支援の)70~90%がハマスによって強奪され、闇市場で売却されている」と非難した。これではせっかくの人道支援も、ハマスを太らせるだけだ。
カタール滞在のハマス政治部門の幹部の個人資産が何兆円と指摘されているが、こういった資金が「中抜き」されているのだろう。
欧州が資金調達源に
フランスの上院議員であり、同国の外交・防衛委員会のメンバーであるナタリー・グレット氏は、サウジアラビア紙アラブ・ニュース(電子版)で、イスラム組織「ムスリム同胞団」について「まず、彼らは多くの人道的活動を行っているが、同じ資金を使って欧州のテロリズムを支援している」と指摘、「私たちは彼らの活動を禁止しなければならない」と訴えていた。英国など、欧州がハマスなどの資金調達源になっている。
「2国家共存」がパレスチナ問題解決の理想的な形であろうが、現状でのガザを含むパレスチナ独立は絵に描いた餅だ。現状の国際支援が頼りで、腐敗が蔓延(まんえん)する組織ではそれは望むべくもない。まず、パレスチナ自治政府が、独立した国家として機能できることをイスラエル、世界に示す必要がある。それには、最低限でもハマスを自治政府の影響下に置くことだろう。パレスチナ独立は「隣にテロ国家を新設するようなもの」(イスラエル政府幹部)という指摘は確かにその通りだ。
(本田隆文)