論説解説室長 宮田陽一郎
「能動的サイバー防御」導入法が16日、参院本会議で成立した。重大なサイバー攻撃の兆候があれば、関与するサーバーに警察と自衛隊が侵入し、攻撃プログラム除去など無害化措置を取ることを定めたものだが、日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」は17日付1面で「戦争呼び込む危険」と煽(あお)っている。
紙面では、反対討論を行った共産党の井上哲士参院議員の発言が紹介されている。「自衛隊が米国と交戦状態にある相手国に対しサーバーに侵入し、機器を使用不能にする『アクセス・無害化措置』を実施すれば、相手国から日本の先制攻撃と受け止められる可能性が極めて高まるとして、『日本を戦争に巻き込むことは到底容認できない』と批判しました」という。
綱領で日米安保条約廃棄を掲げ、日米同盟を敵視する共産党らしい。「日本を戦争に巻き込む」は共産党の常套(じょうとう)句でもある。
しかしサイバー攻撃の脅威が高まる中、攻撃を受けてから対処する「専守防衛」では、甚大な被害が生じかねない。日本の安全を守るため、攻撃を未然に防ぐ体制を整備するのは当然だ。
能動的サイバー防御の導入は、2022年12月改定の国家安全保障戦略に明記された。軍事作戦ではサイバー攻撃を組み合わせた「ハイブリッド戦」が主流となり、ロシアのウクライナ侵攻でもインフラを狙ったサイバー攻撃が多発していることが背景にある。台湾統一を目指す中国の軍事的圧力で台湾海峡の緊張が高まる中、日本政府は「欧米と同等以上」の能力確保を目指している。
侵入・無害化措置について政府は、重大で差し迫った危険から不可欠の利益を守る唯一の手段で、相手国の利益を深刻に侵害しないなどの条件がそろえば、国際法上許容されるとしている。「警察と自衛隊が憲法と国際法が禁じる先制攻撃に踏み込むことを可能としている」という井上氏の批判は的外れだ。
国家安全保障戦略には、敵のミサイル基地をたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)保有も明記された。共産党はこれに対しても「憲法違反」とかみついているが、1956年2月に当時の鳩山一郎首相は国会で「他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能」と答弁している。能動的サイバー防御はサイバー空間における反撃能力だと言えよう。