論説解説室長 宮田陽一郎
立憲民主党は4月30日、選択的夫婦別姓制度を導入するための民法改正案を単独で衆院に提出した。立民の機関紙「立憲民主」5月16日号は、2面で法案の内容を紹介している。
「現行の民法では、夫婦同氏が義務付けられており、改姓による不利益や、アイデンティティの喪失などといった問題が指摘されてきました。本法案は、個人の尊重と男女の対等な関係の構築等の観点から、夫婦の氏を統一するか各自婚姻前の氏を使用するか選択できるようにするもの」
「男女の対等な関係の構築」というのは、結婚の際に姓を変えるのは女性の方が圧倒的に多いことを念頭に置いたものだろう。「改姓による不利益」を被るのも、大部分が女性だということになる。
さらに「立憲民主」は「子の氏を決めるタイミングは、2022年に野党共同で提出した選択的夫婦別姓法案では、子の出生時としていましたが、今回の提出法案では、1996年の法制審議会答申をベースとして婚姻時に決めることとし」たと記している。このようにすれば兄弟姉妹の姓は統一されるが、それでも片方の親とは別姓となる。
もちろん「個人の尊重」は重要だ。ただ、婚姻制度には子供の福祉を守るという目的がある。夫婦が自分たちの都合で別姓を選択し、家族の一体感を損なうことが、子供の成長にプラスになるとは到底思えない。
そもそも、改姓による不利益のほとんどは旧姓の通称使用拡大で解消できるものだ。立民が夫婦別姓にこだわるのは、特定のイデオロギーに基づくものだと受け取られても仕方がない。
内閣府が2022年3月に公表した世論調査結果によると、夫婦別姓によって「子供にとって好ましくない影響があると思う」と答えた人は約7割に上った。立民はこうした国民の声を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
立民は選択的夫婦別姓制度の導入に向け、布石を打ってきた。昨年10月の衆院選では自民、公明両党が大敗して少数与党に転落。野党第1党の立民は予算委員長のほか、制度導入のカギを握る法務委員長のポストを獲得した。
当初、導入法案は後半国会の焦点の一つになるとみられていた。ところが、トランプ米政権の高関税政策やコメの価格高騰などへの対策が大きな課題として浮上。後回しになった感は否めない。
立民の法案が各党の賛同を得られる見通しも立っていない。導入に前向きな公明は、政府提出法案にすべきだと主張。自民は今国会中の独自法案取りまとめを見送る方針だ。
一方、日本維新の会は5月19日、旧姓の通称使用に法的効力を与える法案を衆院に提出。国民民主党は28日、別姓を選択した夫婦の子は戸籍の筆頭者と同じ姓を名乗ると定めた民法改正案を提出するなどの動きも出ている。
今回は法案提出を見送った自民だが、党内では慎重派と推進派の意見が割れているのが実情だ。法案を取りまとめなかったのは、参院選を前に亀裂を生むのは得策ではないと判断しただけのことで、党が一丸となって反対しているわけではない。
選択的夫婦別姓制度が導入されれば、家族の絆が弱まることは避けられない。子供の健全な成長を支える家族の機能が低下すれば、さまざまな社会問題を引き起こしかねず、与野党とも夫婦別姓のもたらす弊害を直視しなければならない。