
立法府の総意を壊す
「何とも面妖な紙面でした。朝日新聞かと思わず二度見してしまいました」。長島昭久首相補佐官がX(旧ツイッター)に記したこの言葉が、読売新聞の皇位継承に関する唐突な提言の衝撃を表している――。これは産経17日付の1面コラム「産経抄」の一文である。
読売が15日付1面トップに「皇統の安定 現実策を」と題する読売新聞社提言を発表し、女性宮家の創設のみならず、その夫・子も皇族とし、「女性天皇に加え、将来的には女系天皇の可能性も排除することなく、現実的な方策を検討すべき」と女系天皇まで持ち出したからだ。
これに対して八木秀次・麗澤大学教授は「まとまりかけていた『立法府の総意』をぶち壊して振り出しに戻そうとするのか」(産経18日付)と怒りの声を上げている。共産党と立憲民主党以外の与野党8会派は男系による万世一系の歴史と伝統を重んじ、すでに「男系継承原則の堅持、女性皇族の民間人配偶者および子は皇籍を認めない」との考えで合意している。それを読売は共産・立憲に同調し「ちゃぶ台返し」を企てようとしているのか。
これは「面妖」(奇妙なこと)や「唐突」というより、「またぞろ」と言うべきものだ。2005年11月、皇室典範有識者会議が女性・女系天皇を容認する答申を小泉純一郎首相(当時)に提出した際、読売は女系天皇容認論をぶっているからだ。同会議はロボット工学の専門家など門外漢の学者ら10人から成り、答申にジェンダーフリーを持ち込み天皇(男子)が「性別による役割分担」のように記した。
男系維持を優先検討
読売は社説「平易に説いた男系維持の難しさ」(同年11月25日付)で「有識者会議が示した制度を、多くの国民が共感をもって受け入れるなら、皇室制度が揺らぐことはない」と、受け入れなければ皇室制度が揺らぐぞと恫喝(どうかつ)もどきに論じた。今回の提言はその焼き直しだ。当時、朝日も社説「時代が求めた女系天皇」(同)で、女性天皇の前にいきなり女系天皇への支持を表明。読朝の女系容認論は際立っていた。
一方、毎日は答申に国民合意を担保し(同22日付社説)、日経は「巧遅は拙速に如かず、という事柄ではない」(同25日社説)と慎重論、産経と本紙は答申に真っ向から異議を唱えた。注目されたのは朝日の岩井克己編集委員(皇室担当)で社説に“逆らって”、答申が少子化を持ち出したり、伏見宮系統の旧皇族の復籍を退けたことに疑問を呈し拙速な議論は「禍根を残す」と警鐘を鳴らした(同25日付「皇室の未来 論議尽くせ」)。
三笠宮寛仁殿下も声を上げられた。福祉団体の会報に「世界に類を見ない我が国固有の歴史と伝統を平成の御世でいとも簡単に変更して良いものかどうか」と疑問を呈され、皇籍離脱した元皇族の皇籍復帰や現在の女性皇族(内親王)が元皇族(男系)から養子を取れるようにするといった代案も示され、翌06年には雑誌などで男系維持の検討を優先させるべきと主張された。これには朝日が噛(か)みつき「寛仁さま、発言はもう控えては」(06年2月2日付)と社説で名指し批判。産経がすかさず「『言論封じ』こそ控えては」(同3日付主張)と反論するなど論議を呼んだ。
皇室の歴史・伝統否定
読売と朝日の「共闘」は女系天皇にとどまらなかった。朝日発行の月刊誌『論座』(06年1月号)で読売主筆の渡辺恒雄氏と朝日論説主幹の若宮啓文氏(いずれも当時)が対談し靖国批判を繰り広げた。同誌の表紙には「渡辺恒雄氏が朝日と『共闘』宣言」とまで謳(うた)われていた。
両紙の女性・女系天皇の思惑は06年春の秋篠宮妃紀子殿下の御懐妊で霧消した。それが再びの読売女系容認論である。朝日は今のところ沈黙している(18日付現在)。渡辺・若宮両氏とも鬼籍に入ったが、この指令がインプットされていれば、「共闘」再来か。左翼と肩を組み歴史と伝統を否定するようでは、もはや読売に保守の名は冠せない。
(増 記代司)