成長投資のチャンス
令和のコメ騒動とも言うべき、コメの高騰が収まらない。政府は備蓄米を放出して価格の低下を狙うが、コメの価格は高止まったまま。これまで自給率100%といわれてきたコメも、ここにきて政府は外国産米の輸入を検討しているとか。それでなくとも日本の食料自給率は40%未満と先進国の中でも下位に属する。担い手不足、高齢化、離農に加え、ここにきてコメの高騰が追い打ちをかける。日本農業の行く末を案じざるを得ない状況だ。
だが、そうした中で週刊ダイヤモンド(4月5日号)が、「儲かる農業2025~米騒動の裏で膨らむ商機」との見出しを付けて、日本農業の光の部分に焦点を当てて特集を組んだ。
総じて同誌は日本農業の見通しについては極めて楽観的だ。今回のコメ騒動に関しても、「コメの価格は、消費者にとっては大問題だが、かといって農家が責められるものではない。むしろ低迷してきた価格が適正化してきた現状は、農家にとって成長投資のチャンスだ」と、ある意味、米価高騰を擁護。また日本農業の現状についても、「暗い話ばかりではない。農業の世代交代が進み、固定観念にとらわれない新時代の農業者は隆盛しているのだ。日本農業の夜明けは近い」とさえ言い切る。
従って、企画の構成も、前半ではIT企業大手や商社さらには自動車関連企業と優良農家が連携し、農業をアグリビジネスと捉えて意気揚々と農業に営む農家を紹介。後半では、これまで日本農業を牽引(けんいん)してきた農協、JAグループの膠着(こうちゃく)ぶりを指摘しながら生き残り策を展開している。
ツールで生産効率化
もっとも、こうした特集は今回が初めてではない。「儲かる農業」と銘打った特集は10年近く行われており、いわば恒例のシリーズ企画。また、ダイヤモンド誌といえば、企業や団体、自治体などテーマごとに分けてランキングで表してその優劣を競うことを“売り”にしているが、今回もご多分に漏れずさまざまなランキングを発表。その中で目を引いたものの一つが「農業ツールランキング」。今や農業の世界では全測位システム(GPS)やコンピューター、さらに人工知能(AI)などを使って生産性を高めるソリューション農業が広がりを見せる。
そうした農業ツールを使って生産の効率化を高め、売上高を伸ばした機材やシステムをランキング化したのだが、その中で7位に位置しているのがバイオスティミュラント資材。これは、植物が受ける高温や低温、風などの非生物的ストレスを制御することにより気候や土壌のコンディションに起因する植物のダメージを軽減し、植物本来のおいしさや収量を発揮させる技術で、近年、世界規模で使用量が増加している。
この資材を取り入れた北海道の農家が水田に不向きの網走市郊外の畑地にコメの乾田直播(ちょくはん)栽培に取り組んだところ、23年では10㌃当たり籾(もみ)ベースで10・8俵、24年には8・8俵の収穫を得た。何よりも乾田直播栽培でこのレベルの収穫が可能となれば、現在の米価では十分に採算が合うという。海外で人気のある日本産コメ輸出につながる話でもある。
この他、特集では面積当たりで収益の大きい「中小キラリ農家」をランキングとして列挙し、工夫と連携で売り上げを伸ばし、地域に根差す農家を紹介している。
多面的機能にも注目
担い手不足と高齢化に悩む日本農業。膠着化しているといわれる日本の農協。さらに無策といわれる政府・農水省。そうした中で着実に若手を中心とした農業者が新しい技術を導入し、そこに大手企業が参入して新しい形の農業づくりを進めようとしていることは確かなようだ。加えていうならば、“日本の農村”もまた大きな資産を有している。日本の農業には、多面的機能がある。一つに日本の農村は、その原風景ともいうべき牧歌的薫りを有し、海外からの観光客を誘致する観光資源ともなっている。そうした多面的機能を捉えて日本農業の未来を論ずることも必要であろう。(湯朝 肇)