トップオピニオンメディアウォッチ核禁条約締約国会議 「公明新聞」が意義を説明

核禁条約締約国会議 「公明新聞」が意義を説明

論説解説室長 宮田陽一郎

3月3日から7日まで米ニューヨークの国連本部で核兵器禁止条約(核禁条約=TPNW)の第3回締約国会議が開かれた。核禁条約は核を違法とした初の国際条約で、開発、実験、生産、取得、貯蔵、保有、使用、威嚇などを全面的に禁じている。

公明党機関紙「公明新聞」は4月4日付4面で「『抑止論』に挑む核兵器禁止条約」との見出しで、今回の会議の意義について「核の非人道性の主張だけでなく、核抑止を柱とする安全保障論と対話する方向性が示された」と説明した。

記事では「TPNW2・0」という言葉が紹介されている。これは、長崎大学核兵器廃絶研究センターの副センター長を務める河合公明教授が使ったものだ。これまでの「1・0」が核の非人道性を強調して条約の普遍化を進めるのに対して「非人道性を基礎としながらも『核抑止の有効性や限界について、科学的根拠に基づき検討しよう』と呼び掛けたのが『2・0』だ」としている。河合氏は「核に依存する安全保障論としての核抑止論と、核に依存しない安全保障論としての核禁条約を対比して、議論の共通基盤を整える試みだ」と述べている。

単に核の禁止を唱えるだけでは、核に安全保障を委ねる国々は受け入れられない。核禁条約も安全保障の一環だということで「議論の共通基盤を整え」ようとしているのだろう。しかし、現状で可能だろうか。

日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が昨年のノーベル平和賞を受賞したことで、核廃絶というテーマに注目が集まったことは確かだ。ただ核禁条約の締約国は73カ国・地域に上るが、核保有国や「核の傘」に依存する日本、北大西洋条約機構(NATO)加盟国などは参加していない。また記事の中で「核廃絶と核軍縮にとって逆風が吹き荒れ」と書かれているように、ウクライナを侵略したロシアが核による威嚇を行う中、フランスのマクロン大統領が自国の核抑止力を欧州の同盟国に拡大する議論を始めると表明するなど、むしろ核抑止力の重要性が高まっている状況だ。

日本周辺では中国が核戦力を急速に拡大している。米国防総省が昨年12月に公表した年次報告書によれば、昨年半ば時点で運用可能な核弾頭数が600発を超え、前年から100発増加したと分析。2030年までに1000発を超え、35年まで急速な拡大を続ける公算だとも予測した。

また北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は今年2月、米国主導の安全保障体制が「朝鮮半島や北東アジアでの軍事的不均衡を招いている」と主張。核を含む全ての抑止力を強化するための「新たな計画」に言及し、核戦力をさらに高度化すると表明した。

これでは、日本としては米国の核の傘に頼らざるを得ない。唯一の被爆国である日本に対し、核禁条約を締結するよう求める声は強いが、政府が今回の会議へのオブザーバー参加を見送ったのは、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、妥当な判断だったと言えよう。

もちろん、大量破壊兵器である核を廃絶することは全世界にとっての大きな課題だ。被爆国の日本には、核による被害がいかに悲惨かを伝える役割もある。

だが今、核廃絶を訴えても中国や北朝鮮、ロシアなどが耳を傾けるだろうか。仮に日本が核禁条約を締結して米国の核の傘から出れば、中国などの思うつぼではないのか。

日本を守るには核抑止力の向上が欠かせない。そのためには「持たず、作らず、持ち込ませず」とする非核三原則の「持ち込ませず」を見直し、米国の核運用に参加する「核共有」も検討すべきだ。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »