過激化する偏向報道
この欄で筆者は、LGBT(性的少数者)の権利拡大運動を後押しするNHKの番組を幾度となく取り上げ、批判的に論じてきた。主に俎上(そじょう)に載せたのはEテレだった。その過激度は、NHKの中でも群を抜いていたからだ。
そのEテレが4月5日夜に放送したドキュメンタリー「フェイクとリアル~川口 クルド人 真相」が大問題となっている。クルド人を被害者にする一方で、治安悪化を懸念する住民の声を無視している、とSNSで炎上し国会でも取り上げられた。
筆者は問題となってからこのドキュメンタリーを知った。再放送もされずオンデマンドでも配信していないので見ることができなかった。それほど偏向ぶりが際立ったのだろう。見ていないので内容について論評はできないが、男女の性器名称を叫ぶ「ジェンダー体操」を放送するなど、LGBT番組の過激度を知る筆者としては、Eテレ担当者の中に、偏向番組の制作を厭(いと)わぬ過激思想の持ち主がいても不思議に思わない。
兵庫県知事のパワハラ疑惑に端を発した知事(斎藤元彦)派と反知事派の対立で、TBS「報道特集」が相も変わらず知事派攻撃に偏っているとの批判が渦巻くなど、テレビの偏向報道は枚挙に暇(いとま)がない。そんな中、注目のフジテレビ改革で、ある経済人の発言が話題となっている。
6月の株主総会に向け、フジ・メディア・ホールディングス(フジHD)の新たな社外取締役候補に挙がるSBIホールディングスの会長兼社長、北尾吉孝の記者会見(17日)での発言だ。「信頼度は旧(オールド)メディアのほうが(ネットより)勝っているが、どんどんそれが落ちている。偏った報道や既得権益の主張通りの報道をしているからだ。これに対して、一般視聴者はもううんざりなんだ」と、既存メディアに苦言を呈すると共に、ネットの信頼度はAIを使えば改善できると強調した。
各紙信頼失い購読減
さらに「(メディアとしての)価値や使命が日枝(久)氏(フジHD取締役を3月退任)の40年以上にわたる政権の中で消失していると言わざるを得ない。だから、価値・使命・ビジョンの確立こそ最も重要」と訴えた。
新聞・テレビは今や「オールドメディア」と揶揄(やゆ)され、月刊誌にも「マスメディアの終わり?」(『Voice』5月号)という見出しが躍る。新聞・テレビが信頼を失っていることは隠しようがなく、X(旧ツイッター)では北尾のオールドメディア批判について「まともなことを言っている」と、評価するポストで溢(あふ)れている。
ところが、記者会見翌日の新聞報道を見ると、「フジが敵対するなら『受けて立つ』」(朝日)、「フジ 敵対なら徹底勝負」(毎日)と、フジに対する北尾の厳しい姿勢を伝えるだけ。自分たちに都合の悪いことは報じないという偏向報道が信頼失墜と購読者離れにつながっていることに向き合いたくないのだなと思った。
そんな中で、北尾の批判に反応した番組があった。渦中にあるフジテレビ朝の新情報番組「サン!シャイン」で、MCを務める俳優の谷原章介が次のように述べた。
「SNSは、発信側と受ける側が対等な関係を築いてきたからこそ信頼がある。今まで僕らメディアはどちらかというと、発信する側、受け手側の一方通行の関係性の中で、どこか無意識のうちに力関係が成立してしまって、上から目線があったんじゃないかな、とこの会見ですごく思わされた。改めて僕らメディア側としても襟を正さなければいけないと思う」
フジ大改革の可能性
谷原は俳優であり、フジを代表しているわけでもない。だから、言いやすいという面はあるだろうが、彼だけでなく局内には、小手先の改革では信頼回復はできないとの危機感があるはずだ。よくピンチはチャンスという。北尾がフジHDの取締役入りしたら、フジテレビはどんな価値・使命・ビジョンを打ち出してくれるのか。未(いま)だに偏向報道を反省しない他局より大改革が可能ではないか、と期待してしまうのだ。
(敬称略)
(森田清策)