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豪州の中国に対する貿易協力・安全保障「拒否姿勢」を評価した産経社説

他紙の論説はスルー

漆黒の闇に光る小さな灯(ともしび)は、際立った輝きを放つ。

13日付産経の主張(社説)「豪の対中姿勢 明瞭な『拒否』を評価する」にも、そうした感慨を持った。他紙論説が、この問題をスルーする中、産経一紙が社説テーマに取り上げた。

オーストラリア政府は10日、米国の関税政策に対抗するため協力を求めた中国政府の呼び掛けを拒否するとともに、中国が権益を持つ豪北部ダーウィン港の賃借契約も見直す方針を打ち出した。

中国への厳しい姿勢を強めている豪州に対し、産経の主張は「判断を支持したい」ともろ手を挙げて賛意を示した。

「豪州は、日米豪印4カ国の安全保障枠組み『クアッド』の一角だ。その明瞭な外交姿勢は、中国を抑止するうえで重要な意味を持つ」と言うのだ。2015年に中国企業が地元当局と100年間の賃借契約を結んでいるダーウィン港に関しても「米海兵隊が巡回駐留し、多国間の軍事演習の拠点ともなる戦略的要衝だ」とし、同港から「中国の影響力を排除することは、豪州はもちろん、インド太平洋地域の安全保障に深く関わる」と論じた。

これまで中国は豪州に対し、硬軟両面で影響力を握ろうと外交攻勢を仕掛けてきた。中国は豪州との関係を深めることで、米国がアジアや南太平洋で主導する対中包囲網にくさびを打つと同時に南太平洋を中国の海にしたい野望を持つ。

豪州はその中国に対し、鉱物資源の対中輸出依存度を高め、対中貿易黒字を計上し、多くの中国人観光や留学生を受け入れてきた経緯がある。

だが中華主義の中国は、意にそぐわない行動に出ると豹変(ひょうへん)し、途端に鞭(むち)を振るってくる。

米の対中政策を考慮

豪中関係はモリソン前政権が20年、中国に新型コロナの発生源の独立調査を要求したことで冷え込んだ。中国はワインや牛肉、石炭といった豪産品に次々と輸入制限を掛けて報復し、閣僚間の対話も途絶えた。

それが23年11月にアルバニージー豪首相が中国を訪れ、習近平国家主席と会った。両首脳会談では外交関係の正常化で一致した。そのアルバニージー氏が今回、対中姿勢を一変させた。5月の総選挙をにらんだ政局的な判断もあっただろうが、トランプ米政権の対中戦略など国際社会の潮流を考慮した結果だろう。

さてジャーナリズムだけでなく、世界が固唾をのんで見つめているトランプ大統領の関税政策だが、侃々諤々(かんかんがくがく)の論争が続いている。多くはいかにしたら自国の経済や産業が守れるかだ。無論、こうした議論は大事なことだが、歴史を含めたもっと大きな鳥瞰(ちょうかん)図的視座が必要に思う。そうした大局的な視点なくしては小手先の対応など、吹き飛んでしまうからだ。

米中相互関税の展望だが、多くの国が対米交渉へと乗り出している中、中国は対米報復関税を課し、それに対してトランプ政権は対中追加関税を課した。この「貿易戦争」の展開は、中国の対米輸出総額(24年、5347億㌦)が米国の対中輸出総額(24年、2714億㌦)を圧倒的に上回るため、結果は火を見るより明らかだ。

不動産不況にあえぐ中国経済の低迷ぶりが顕著になる中、これまで中国経済を牽引(けんいん)してきた海外からの投資は減り、さらに輸出が激減するとなると経済成長を支えてきた大黒柱が脆弱(ぜいじゃく)になる。これは経済発展を後ろ盾にしてきた、中国共産党の政治的求心力にも陰りが出てくることにつながる。

米中冷戦終結視野?

レーガン元米大統領はソ連との冷戦終結に臨んだ折、サウジアラビアに原油の増産を依頼して石油安市場を作りだし、原油と天然ガス頼りのソ連経済にダメージを与えた。その上で軍拡競争に入ることで、冷戦終結のバーゲニングパワーを得ることになった。

トランプ氏がそうした米中新冷戦終結を視座に入れているなら、ワシントン、レーガンに並ぶ大政治家になるのだろうが……。

(池永達夫)

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