サイバー攻撃に無策
サイバー攻撃に日本は無策だった。このことは左右を問わず各紙の共通認識と言ってよい。政府が2月に「能動的サイバー防御(ACD)」法案を閣議決定した際、朝日は2面総合面の“ニュースを深く読み解く”の「時時刻刻」欄でサイバー攻撃の実例を次のように挙げた(同8日付)。
――昨年12月26日朝、日本航空(JAL)の手荷物を預かるシステムに不具合が発生し、国内・国際線計70便以上に遅延や欠航が発生した。社内外をつなぐネットワーク機器に大量のデータを送りつける「DDoS(ディードス)」と呼ばれるタイプのサイバー攻撃とみられている。年末年始は三菱UFJ、みずほなどの大手銀行やNTTドコモといったインフラ企業へのサイバー攻撃が相次ぎ、自民党内から「一刻も早くサイバーセキュリティーの能力を高めないと日本人の暮らしが危ない」(小野寺五典政調会長)との声が上がった――
朝日は同欄でこうも書いた。「(サイバー攻撃は)中国など国家組織――の関与も指摘される。電力や通信などの基幹インフラを運営する企業がサイバー攻撃で被害を受ければ、国民の生活に重大な影響が出る。日本のサイバー防御はこれまで企業任せだった側面があり、『世界中のハッカー集団にとって、日本は良いカモ』(政府関係者)と言われてきた」
一方、読売は2月8日付に1頁全面を割いて「『能動的サイバー防御』法案のポイント」の特集を組んだ。その中で「増す脅威 攻撃高度化 14秒に1回」との被害実態を紹介し、「米英独など主要国はすでに能動的サイバー防御を導入済みで、日本だけが後れを取れば、各国との安全保障協力や機密情報共有に支障が出かねない」とし、同16日付社説は「重大な被害を未然に防止せよ」と訴えた。
人材や連携も未知数
衆院でのACD法案の審議入りを前に朝日は「能動的サイバー防御」と題する3回シリーズを組んだ。「狙われた名古屋港 機能停止」(3月4日付)、「『同盟の弱点』対応迫る米 防衛機密『中国が深く侵入』」(同5日付)、「足りぬ人材 連携も未知数 ハイブリッド戦 募る危機感」(同6日付)とサイバー攻撃への課題を洗い出した。読売も「論点サイバー法案」の5回シリーズを組み(3月7~18日付・随時)、こちらは法案の解説に力点を置いていた。いずれも読ませた。
このようにACD法案はイデオロギーを超えた国民の死活に関わる重要法案であることが理解できる。先週、衆院本会議で一部修正が加えられ(憲法の「通信の秘密」尊重、独立機関「サイバー通信情報監理委員会」の年次報告内容明示など)、賛成多数で可決され、参院に送付されたのは当然だろう。
ところが、共産党とれいわ新選組が反対した。共産党の機関紙『しんぶん赤旗』(4月12日付主張)を見ると、「憲法が保障する『通信の秘密』の侵害」や「自衛隊と警察が憲法と国際法に反した先制攻撃に踏み込む危険」などを挙げ、「憲法と国際法を踏みにじる法案は廃案しかありません」と拳を上げていた。どうやら国民の暮らしを踏みにじるサイバー攻撃には関心がないようだ。イデオロギー先行の共産党にとって「暮らしを守る」は看板だけの話か。
その共産党と同類のように思われるのが、朝日社説である。サイバー攻撃への防御について全く触れずに「懸念」ばかりを俎上(そじょう)に載せ、ACDに足かせを嵌(は)める「歯止め」論に終始している。
一貫性ない朝日紙面
閣議決定の際には「懸念払拭へ徹底審議を」(2月8日付)と言い、衆院可決には「修正で終わりではない」(4月11日付)と難癖を付け、「国会の監視機能を高め、権利侵害への歯止めを強化」せよと迫っている。読売の「重大な被害を未然に防止せよ」とは対照的だ。
記事ではサイバー攻撃のすさまじさを言いつつ、社説は「憲法あって人なし」である。二枚舌か、多重人格か。朝日紙面に一貫性はまるでない。
(増 記代司)