
最大の感染地ルポも
中国武漢で発生した新型コロナウイルスがパンデミックとなり、世界で約700万人の死者を出して、はや5年が経過した。ドイツ週刊誌シュピーゲル(3月15日号)は武漢ウイルスに関連した2本の記事を掲載している。一本は欧州で最初のコロナウイルス感染地となったイタリアのベルガモをルポし、2本目はドイツ情報機関(BND)が2020年に既に入手していた武漢ウイルスの機密情報に関する記事だ。
イタリア北部ロンバルディア州は中国武漢発の新型コロナウイルスの最大感染地となった。その州の中でも人口12万人の小都市ベルガモ市の感染者数が最も多い。世界のメディアはベルガモを「イタリアの武漢」と呼んだほどだ。
感染者が殺到する同州の病院は患者で溢(あふ)れ、医療は崩壊。20年3月18日、ベルガモでコロナ患者の遺体を運ぶ軍用トラックの写真が世界に発信された。遺体の数が多過ぎて埋葬する場所がなくなったために、軍用トラックがコロナ患者の死体を他の州に運ぶ写真だ。この写真を見た人々は中国武漢発の新型コロナウイルスの恐ろしさを感じたはずだ。
イタリア当局は翌19日、コロナ患者の死者数を初めて公表した。当時、3405人がコロナ感染で亡くなった。新型肺炎の死者数では欧州のイタリアは中国のそれを大きく上回り、世界最大の感染地だった。
シュピーゲル誌はコロナのパンデミックの欧州のホットスポットとなったベルガモを現地取材したルポを掲載していた。コロナ感染で亡くなった患者の家族関係者は埋葬の場には立ち会えず、葬儀も15分から20分で終わったという。突然の親族の死に「準備もしていなかったトラウマに今なお苦しむ人が多い」という。
研究所流出説を裏付け
ところで、中国武漢発の新型コロナウイルスの発生源問題では「自然発生説」と「武漢ウイルス研究所(WIV)流出説」の2通りがあるが、BNDが20年の段階でWIV流出説を裏付ける機密情報、資料を入手していたことが明らかになった。
独民間放送ニュース専門局NTVによると、BNDは20年初めにコロナパンデミックの起源に関する機密資料を入手していた。BNDによると、武漢ウイルスの起源は「80~95%」WIV流出説が正しいというのだ。そのBNDの機密情報、資料はドイツ政府に封印され、メディアで報じられることはなかった。独メディアによると、「メルケル政権(当時)がBNDの情報の公表を避けたのは、中国共産党政権を激怒させたくないという政治的配慮が働いたのではないか」と推測している。
BNDが入手した資料や機密情報は、公的なデータの分析に加え、「サーレマー」というコードネームで行われた情報機関の極秘作戦で入手した資料に基づくものだった。資料の中には、中国の研究機関、特にウイルス研究の最先端機関であるWIVからの科学データが含まれていた。また、自然界のウイルスを人為的に改変する「機能獲得」実験のリスクに関する証拠や、研究所の安全基準違反を示す多数の資料も含まれていたという。
「衝撃受けた」と研究者
シュピーゲル誌によると、BNDは今年1月第2週、ドイツ国内のウイルス専門家を呼び、BNDが保有している武漢ウイルスの起源に関連した資料、文書を説明している。そのゲストの中にはドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)も含まれていた。
説明を聞いたドロステン教授はドイツ通信(DPA)に、「衝撃を受けた」と答えている。同誌は「以前はWIV説に批判的だったドロステン教授にとって、この発言は劇的な方向転換を意味する。教授は明らかに新しい情報に驚きを隠せなかった」としている。
なお、シュピーゲル誌は「世界保健機関(WHO)のウイルス専門家はBNDの情報をメディアを通じて知り、武漢ウイルスの起源問題で理解を深めた」と記している。
(小川 敏)