海外に下振れリスク
2日付日経「米関税リスクに備え内需の基盤を確かに」、3日付読売「日銀短観悪化/トランプ関税が影を落とした」、4日付本紙「3月日銀短観/トランプ関税の影響が心配だ」――。
日銀が1日に発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)を受けての掲載紙社説の見出しである。
今回は前回調査と比べ、大きな違いがなかったこともあり、掲載は保守系3紙だけと少なかったが、目下、世界の株式市場を大きく揺さぶるトランプ関税の影響が出始めた短観だけに、今後の要注意点を確認する上でも3紙の掲載を評価したい。
日経は、トランプ米大統領の高関税政策が「日本企業の心理に暗い影を落とし始めた」として、「海外発の下振れリスクをにらみつつ、成長力の底上げに向けた基盤を確かなものにする取り組みを官民で加速すべきだ」と訴えた。
同紙の主張の背景にあるのは、「国内景気の回復の流れは続いている。問題はトランプ関税を巡るリスクをはね返せるだけの力強さが内需にあるかどうかだ」で、尤(もっと)もな指摘である。
掲載3紙が示すように、雇用人員の過不足を判断する指数を見ると、全規模全産業の人手不足は1991年8月以来の深刻さを示しており、「大幅な賃上げを支える半面、企業の活動を妨げ、成長の制約要因になり得る」(日経)からである。好調な非製造業で先行き悪化を見込むのも、物価高の継続とこのためである。
危機感より強い読売
3月短観は、物価高が長引く中、企業の物価見通しも販売価格、仕入価格ともに一段と上昇していることを示した。日経は「内需回復には積極的な賃上げの継続に加え、人手不足の悪影響を和らげる官民の努力が不可欠だ」と強調。
その対応として、企業間や業界内の幅広い連携による省力化投資や、柔軟な労働市場への制度改革といった課題を一つ一つこなしていくことが重要だとしたが、その通りであろう。
そんな日経より危機意識がやや強めなのが読売で、トランプ氏の高関税政策乱発で、「日本経済の先行きに不透明感が増してきた。政府と日本銀行は警戒感を高め、景気が腰折れせぬよう対策を講じていかねばならない」とした。
今回、企業の景況感を示す業況判断指数は大企業製造業でプラス12と前回調査より2ポイント低く、四半期ぶりの悪化となった。2ポイントの小幅悪化だが、16業種のうち11業種で悪化し、中でも「鉄鋼」はマイナス18と前期より10ポイントも大幅に悪化させている。
大企業製造業で小幅悪化にとどまったのは、多くの企業が業況判断の回答を3月半ばまでに終えていたためで、自動車関税などの影響は、十分に反映されていない。
日経は「この先の下振れリスクを警戒すべきだろう」としたのに対し、読売は「今後、実際に高関税が発動されれば、さらなる景況感の悪化は避けられない」と危機感を募らせた。本紙もこの点は読売と同様で、「足元の景況感は悪化している可能性がある。今後は懸念が深まり、景況感を一段と押し下げる恐れが強い」とした。
日銀が今後陥る苦悩
日銀に対しては、日経は「海外のリスクはもちろん企業や家計の動きを注視し、的確な金融政策運営につなげてほしい」、読売も「景気と物価動向を丁寧に点検し、追加利上げの時期を慎重に判断していく必要がある」と注文したが、金融当局として当然の責務であり当たり前過ぎよう。
この点、本紙は、米国の通商政策への反発から報復関税の動きが各国で広がれば、世界経済が悪化する懸念が少なくないことから、「そのような中で物価が上振れて推移すれば、日銀はさらなる利上げを巡り難しい判断を迫られよう」と指摘し、日銀が今後取り組まざるを得ない苦悩に言及した。この点は、手前みそになるが、本紙を評価したい。(床井明男)