筆舌に尽くせぬ暴力
スーダンの準軍事組織が支配していた首都ハルツームを正規軍が解放したことが3月26日伝えられた。東部の武装勢力ジャンジャウィードの民兵の残党が組織した準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が蜂起し、ハルツームを支配してちょうど2年になる。
この間、国連によると、700万人以上が避難を余儀なくされた。多くの死者が出ていることは間違いないが、その数については「信頼できる見積もりはなく」(英紙ガーディアン)、今のところ不明という。
スーダンの惨状について、国連の「UNニュース」は「性的暴行が女性が子供に対する恐怖の武器として使用された」と伝え、英ロンドンを拠点とするアフリカン・ビジネス誌は、「スーダンの人々は、包囲された状態で、脱出することもできず、希望もなく、筆舌に尽くし難い暴力にさらされている」とハルツームを巡る国際移住機関(IOM)当局者の声を伝えた。
ガーディアンのコラムニスト、ネスリーン・マリク氏は現地の状況を「包囲が解除されたハルツーム―残された想像を絶する恐怖」として伝えた。記事が書かれたのは解放からわずか5日後だ。
スーダン正規軍とRSFはかつて協力関係にあったが、2023年4月に衝突、RSFがハルツームを支配してきた。マリク氏は、「犠牲となったのはスーダン国民だ。RSFはハルツームを占領した後、統治するのではなく、剥奪し、住民を恐怖に陥れた」と指摘する。
「住民は略奪と殺人にさらされ、RSF民兵は要求に抵抗する人々を次々に射殺した。死者を墓地に運ぶことを恐れた人々は、通りや裏庭の浅い墓に殺された人々を埋葬した。他の場所では、死体は倒れたまま放置され、腐敗している。民間人に対する広範な性的暴力は、戦争初期から報告されている」とその惨状を伝えた。
根底に民族間の対立
被害を受けたのは住民だけではない。国立博物館には、ヌビア文明やファラオ文明の貴重な遺物が収蔵されていたが、「すでに空っぽで、持ち去れないものは破壊された」。「家や会社は略奪され、家具から身の回りのものまですべて運び去られた。電気配線さえも掘り起こされ、剥がされて売られた」と徹底した略奪ぶりを伝えている。
首都は解放されたが、同国西部はRSFが依然として支配し、各地で戦闘が続いている。「ダルフール紛争」と呼ばれているが、民族間の対立がその根底にある。衝突が発生したのは03年で、すでに20年以上がたつ。非アラブ系住民の反政府蜂起をきっかけに、政府の支援を受けるアラブ系のジャンジャウィードとの衝突が発生した。
同国では、1956年以来、紛争が続いてきた。ダルフール紛争の死者は正確な情報はないが、40万人程度とされている。また、独立以来の死者は国連によると200万人に上ると推定されている。紛争は今も続いているが、世界の他の地域、特に西側の利害が絡む地域での紛争の陰に隠れて、それほど大きくは報道されないのが現状だ。
再建への道筋見えず
マリク氏は、「ハルツーム包囲網の終焉(しゅうえん)は、歓喜に満ちた瞬間であると同時に、深い悲しみに包まれた瞬間でもある」と指摘、「失ったものの大きさ、再建に必要なものは計り知れない」と国家再建への難しさを強調する。
それには国際社会からの関心と支援が不可欠だ。一方で、「RSFを支援するアラブ首長国連邦(UAE)を筆頭とする代理人や傭兵(ようへい)、武器供給者」(マリク氏)など紛争から利益を受けている勢力を排除する作業も必要だ。
「美しく、歴史的で、ストーリーのある」スーダンの街々を取り戻すことはできるのか。再建への道筋は今のところ見えてこない。(本田隆文)