朝日、無邪気にエール
日中韓外相会談が3月22日、東京で行われた。同会談はコロナ禍や2国間関係悪化で4年半ほど中断していたものの、昨年5月、首脳会談が行われ、今回の外相会談で次の首脳会談開催も合意した。
各紙とも同会談の評価を巡り社説を張ったが、もろ手を挙げて無邪気に賛同のエールを送る朝日と、日中会談に的を絞り安全保障の視点から「待った」をかける産経とで好対照を見せた。
朝日は3月23日付社説「日中韓外相会談 課題解決へ協力深化を」で、「国際秩序が大きく揺らぐ中(中略)3カ国が、着実に協力を深めていく必要がある」と前置きした上で、「日韓にとって、中国は最大の貿易相手国である。中国にとっても、日韓は輸出入とも上位を占める。経済では切っても切れない関係にあり、3カ国にまたがる貿易・投資や人的交流などを進めることは、お互いの利益になる」と経済的互恵関係を述べた。
さらに朝日は、「各国とも少子高齢化の問題を抱えており、その対策が必要な点で共通している。災害時における救援は、隣国同士ゆえ、より効果的だ。気候変動や公衆衛生など地球規模の課題にも、協力して取り組むべきだ」とし、協力関係強化のテーマはメジロ押しだと強調した。
日米離間の狙い指摘
一方、産経の同23日付主張「日中外相会談 互恵関係の『基礎』がない」では、「トランプ政権の対中圧力に直面する中国は、対日関係を改善し、近年減少している対中投資を増やしたいのだろう。日米同盟に楔(くさび)を打ち込むねらいもあるように思われる」と総括し、経済の低迷にあえぐ中国が景況感を押し上げる日本からの投資を呼び込みたい思惑と日米離間を図る戦略的外交策を指弾した。
同主張は具体的な問題点として「東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に伴って中国側が禁輸した日本産水産物の輸入再開の協議推進を確認した」ものの「掛け声ばかりで再開時期は明らかにならなかった」と苦言を呈し、馬の鼻先にニンジンとばかりバーゲニングパワーとして日本産水産物の輸入再開問題を使っている懸念があることを批判した。
また、「中国当局が複数の邦人を拘束している問題も進展はなかった」として「この深刻な人権問題が解決しなければ日本人ビジネスマンは安心して赴任できない」と正論を述べた。
中国では2014年に「反スパイ法」が施行されて以降、日本人がスパイ行為に関わったなどとして当局に拘束されるケースが相次ぎ少なくとも17人が拘束され、このうち10人が実刑判決を受け、服役したまま北海道出身の70代の男性が死亡してもいる。
中国が本気で投資を呼び込みたいのなら、自己中心的な強権統治によって恣意(しい)的に自由を奪うような人権無視の拘束は早々に解くべきだ。しかし、この問題で中国側から前向きな返答はなかった。
台湾への乱暴な示威
さらに同主張は安全保障問題を取り上げ、「22日朝までの24時間で中国軍は、沖縄のすぐ隣に位置する台湾の周辺で軍用機のべ47機、軍艦7隻などを展開した。台湾への乱暴な示威行動は容認できない。尖閣諸島周辺での中国海警局船の領海侵入や、与那国島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内の中国ブイの問題も解決していない」と指摘した上で、「中国側の実際の行動に大幅な改善がない限り、中国との関係強化はあり得ない」と断じた。
能天気な朝日に比べ、産経は地に足が着いている。とりわけ安全保障を担保できないままでの経済関係強化は相手国に軍備増強の資金と技術を提供することになりかねず、いずれ国家そのものが立ち行かなくなるリスクが厳然として存在する。
朝日があえて能天気を装っているとしたら、その業は深い。
(池永達夫)