トップオピニオンメディアウォッチ「戦前復古」と批判、地下鉄サリン事件再発防止対策を縮減させる各紙

「戦前復古」と批判、地下鉄サリン事件再発防止対策を縮減させる各紙

防護策の公開は必要

世界初の無差別化学テロとなった地下鉄サリン事件から3月20日で30年が経(た)った。各紙に連載、特集、解説、社説など、関連記事が溢(あふ)れていた。その大半は回顧モノで、20日付社説を見ると「次世代に惨禍を語り継げ」(産経)「教訓共有し、語り継ぐ大切さ」(朝日)と右も左も似たり寄ったりの論調だった。

そんな中で心に響いたのは次の言葉である。「(事件当時、関係者は)一生懸命やったのかもしれない。でも、結果がすべてです。警察をはじめ、人の命を預かる人たちは『どうすれば防げたのか』を問い、対応を検証して公表すべきではないでしょうか。そうでなければいつか、同じことが起きる」

営団地下鉄(現・東京メトロ)霞ケ関駅助役だった高橋一正さん(当時50)の妻、シズヱさん(「地下鉄サリン事件被害者の会」代表世話人)の訴えである(産経20日付)。テロ対策については一部識者が触れているだけだ。どうすれば防げたのかの問いにメディアも答える責任がある。

TBS(毎日の友好会社)は1989年に坂本堤弁護士一家殺害の発端となったビデオ漏洩(ろうえい)事件を引き起こしたし、94年6月の松本サリン事件では新聞、週刊誌が被害者を犯人扱いし、捜査を混乱させた。テレビはオウム真理教幹部を再三登場させ「ああいえば上祐」(当時の教団外報部長・上祐史浩氏)の流行語まで作った。

とりわけ左派勢力は「警察をはじめ、人の命を預かる人たち」を「国家権力の手先」と罵倒(ばとう)し、治安強化にことごとく反対してきた。無差別テロに弱い土壌をつくった責任はメディアにもある。各紙が書かなかった問題点を以下、指摘しておきたい。

広域体制組めぬ警察

まず情報戦の敗北だ。オウム事件を担当した元東京高検検事長の甲斐中辰夫氏は、「山梨や長野など各地で、事件を起こしたりテロの準備を進めたりした教団に関して、情報共有が進まず、警察の総力を結集した体制が組めなかった」と都道府県警の連携不備を指摘している。(読売20日付「論点スペシャル」)

連携不備は、GHQが戦前の警察機構を中央封建的と断じて解体・導入させた「市町村警察」の影響で、都道府県警察も「管轄」に縛られ広域体制が組めなかった。1996年の警察法改正で捜査連携が可能になったが、米国のFBI(連邦捜査局)といった組織は今も存在しない。警察庁の権限拡大や情報機関設置には戦前の警察復活などと批判され続けている。

化学テロ対策の治安部隊がお粗末だった。陸上自衛隊には化学防護隊(現中央特殊武器防護隊)が存在したが、戦前の旧日本軍731部隊(関東軍防疫給水部)の再編などと言い掛かりをつけられ、市街地での化学テロ対処訓練ができなかった。

事件直後、公安当局は破壊活動防止法(破防法)を教団に適用しようと公安審査委員会に請求したが、左翼人権派に侵された同委が請求を棄却した。当時は社会党の村山富市氏を首班とする自社さ連立政権で左翼が闊歩(かっぽ)していた。

国民不安に提言なし

破防法を適用していれば、組織解散と活動の完全封じ込めができたはずだ。同法の代わりに団体規制法がつくられたが、団体解散の規定はなく、それで後継団体が活動を継続している。彼らは松本智津夫元死刑囚への「絶対的帰依を植え付ける指導を続けている」とされ(朝日20日付)、国民に不安を抱かせている。

以上の諸点を新聞はほとんど触れなかった。かろうじて読売21日付社説「第二の『オウム』生まぬために」が末尾に「警察や自衛隊は、様々な事態を想定し、社会の防備を固めてほしい」と願望するだけである。これでは読売が売りにする提言報道が泣く。

こうしてみると、高橋シズヱさんが語る「いつか、同じことが起きる」は杞憂(きゆう)で済まされないことが浮き彫りになる。新聞の地下鉄サリン事件報道も敗北である。

増 記代司

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