問題は「片務条約」に
トランプ米大統領が「日米安保条約は不公平だ」と不満をぶちまけた。「われわれは日本を守らなくてはならないが、日本はわれわれを守る必要もない」として、「いったい誰がこんな取引を結んだんだ」と述べた。
アメリカ大統領ならば、重要な同盟国との重要な安全保障条約の内容や締結の経緯を知らないはずがない。当然知っておくべきだ。まして憲法も安保条約ももっぱら米国の都合で“押し付けた”歴史があるのに、「いったいどの口が言う」と日本政府や防衛関係者は呆(あき)れたことだろう。
AERA(3月24日号)が「日本側こそ『不公平感』」の記事を載せている。防衛ジャーナリストの半田滋氏によるものだ。書く人によってこうも違った観点になるのだということを思わせる記事である。
半田氏は日本政府が負う米軍駐留経費や、日米地位協定によって米軍関係者の犯罪を取り締まれない状況、基地周辺の騒音問題や有機フッ素化合物汚染、それに莫大(ばくだい)な米兵器の購入などを列挙して、日本側から見ればこんなにも「不公平感」があると述べている。
だが、日米安保条約の本当の不公平は「片務条約」にある。トランプ氏が言う通りなのだ。これを解消するには「双務条約」にしていかなければならない。安倍政権で「集団的自衛権の行使」を、岸田政権で「敵基地攻撃能力の保有」を決めて、日本の安全保障政策は大転換した。これは日本が米国を守るために軍の出動を可能にするもので、野党左派陣営は「戦争のできる日本」だとし、平和憲法に反すると猛反発している。
半田氏も、日本が憲法を変えずに、いわば「便法」で「強力な軍事力を有する『普通の国』に変身した」のは「憲法の空文化」だと断じる。確かにそうだ。順序としては憲法から手を付けるべきで、その上で自衛隊を軍隊と認め、国防に必要な軍事力を整えていくべきだ。
兵器「爆買い」要求か
なので「不公平感」を言うなら、まずは憲法を改正し、日本が自国を自分で守れる能力を確保した上で、双務条約に変えていくプロセスを取らなければ、半田氏が指摘した数々の問題点は解決されない。個々の問題を取り上げて、日本にとって不公平だと言ったところで、このように根本から変える気もないなら、諸問題は解決しないのだ。
とはいえ、これはいわば建前論である。その前に米国は本当に日本が「戦争のできる普通の国」になることを歓迎するだろうかという問題がある。米国には「日米安保条約=瓶のフタ」論がある。日本に再軍備をさせないための条約だとの解釈で、先端兵器の自国生産まで制限する。トランプ氏の言うように「自国の防衛は自国でやる」と日本政府が動き出せば、すぐに「フタ」が被せられるだろう。
だから、半田氏はトランプ大統領の発言の狙いは「ディール」だとみる。最初に高く吹っ掛けて、落ち着くところに落ち着かせる。具体的には「米国製兵器のさらなる『爆買い』を求めることにあるのだろう」と書いているが、これまでのトランプ氏の言動から、そこら辺が落としどころだとは想像がつく。
極論で対抗する韓国
トランプ氏の防衛負担増の要求に対して、同じような境遇にある韓国の反応はもっと直截(ちょくせつ)的だ。峨山研究所の梁旭研究員は韓国防衛に限らず、「東アジアにまで視野を広げて韓国が役割を果たす」ことまで言い出す。さらに米国の拡大抑止(核の傘)が期待できないのであれば、自国で核兵器開発を検討するという極論まで口にしている。トランプ氏のディールに対抗する韓国側のブラフともとれる提案だが、日本にはこうまで言い切れる政治家もメディアもない。
日本は歴史的経緯や政治状況などから、韓国のような議論にはならないだろうが、日本政府はいきなり憲法改正からは無理だとしても、米国の要求に対して、日米地位協定の見直しくらいは引き続き求めるべきだろう。基地維持経費の負担も他の米軍基地を置く国と比べても格段に大きいのだから。
最近米国は「在日米軍の強化計画の中止検討」をちらつかせて、日本の負担増を求めようとしてきている。「対米追従の絶対的姿勢」とAERAから批判されないよう石破政権は踏ん張れるだろうか。(岩崎 哲)