相次いだ「満額回答」
13日付読売「『満額』を経済好循環の実現に」、日経「高い賃上げ定着へ労働改革と競争進めよ」、産経「中小にも賃上げの波及を」、14日付毎日「中小への波及を急がねば」、東京「中小にもつなげてこそ」、15日付朝日「成果分かち合う経済に」――。
2025年春闘で12日の大手企業の集中回答の結果を受けて、各紙が掲載した社説見出しである。今春闘は物価高や深刻な人手不足を背景に、歴史的な賃上げ率を記録した前年に匹敵する回答が並んだ一方で、要求に届かないケースも目立った。今後の焦点は、中小企業に大幅賃上げの動きがどこまで広がるかだ。
そうした点から言えば、各紙見出しは列挙したように、日経を除き、春闘の目的や課題を掲げて、これまでと同様な新鮮味のない文言が並んだ。一方、日経はそうした目的や課題の解答を明確に打ち出し、本文も日経らしい経済合理性を貫いた論理を展開した。
課題は持続力と日経
その日経。同紙は足元では食品などの値上げで家計の圧迫が続くため、「消費を押し上げ投資拡大につながるよう、今後交渉が本格化する中小企業も含め、昨年以上の賃上げを期待したい」と表明しながらも、「課題は来年以降の持続力だ」と指摘する。好調な企業収益も、トランプ関税などの影響で先行きは不透明で、賃上げの息切れが懸念されるからだ。
また、実質賃金が安定してプラスになるには、「物価上昇率を確実に上回るベア(ベースアップ)が欠かせない」として、同紙は「定昇が中心だったデフレ時代と異なり、企業は毎年ベアが財務負担として積み上がることを想定する必要がある」と強調。
目指すべきは生産性を高め、付加価値を多く生み出す経営で、そのためには「生産設備や研究開発に加えて、欧米に見劣りする人材教育にも積極的に資金を投じるべきだ。個人の能力を最大限に引き出す人事・賃金制度の改革も、労使で協議して進める必要がある」とした。無論、何をすべきかという趣旨の点は、他紙も同様に指摘する。
日経は一歩踏み込み、「深刻な人手不足を背景に本格的な賃金競争も始まるだろう」として、優秀な人材を確保し企業成長を目指すなら、横並び意識から脱却すべきだとして、「労組も統一要求の是非を検討する必要があるだろう」と提案する。
さらに同紙は、「高い賃上げができる企業や産業に人材が移るのは道理だ。それでこそ社会全体の生産性は高まり、イノベーションも生まれる」と言うわけで、「政府の役割は企業の新陳代謝と成長分野への労働移動を促すことだ」とし、「中小企業を過剰に保護する政策は貴重な人材を衰退産業に滞留させ、経済の活性化と逆行する」と強調する。
確かに正論だが、ここまでくると、強者の論理にすぎないか。各紙も指摘するように、雇用の7割が中小企業という現実である。大企業でさえ高賃金の継続に息切れが見られる中、中小でどれほど高賃金の定着が進められるのか。雇用の流動化はいいが、雇用の崩壊と紙一重の世界で、雇用の安定化が十分に図れるかだ。
日経は最後に、「(政府の)中小支援は価格転嫁が十分できない不当な取引の是正や、生産性向上の後押しに徹すべきである」と説く。
読売のみ物価高対策
価格転嫁については、朝日が指摘するように、大企業による「下請けいじめ」が明るみになり、公正取引委員会の勧告を受ける事例が相次ぐ。各紙も監視の強化は指摘する。
ただ、日経をはじめ他紙の多くが政府に対し、こうした価格転嫁での監視強化や、企業の投資を促す支援策を求めるが、それだけでいいのか。
大手企業で高水準の賃上げは3度目になるが、各紙も指摘するように物価高に多くの国民は長く苦しんでいる。「物価対策をはじめ、生活向上に必要な政策を検討することが求められる」としたのは、掲載6紙で読売だけだった。
(床井明男)