朝日が消費拡大批判
中国で全国人民代表大会(全人代)が5日、開幕した。全人代は中国の憲法で最高国家権力機関と定められ、日本の国会に相当するとされるが似て非なるものだ。
国会議員は国民の代表として公選制で、国民の投票による直接選挙を経て選出されるが、全人代は省・自治区・直轄市・特別行政区や中国人民解放軍から選出された代表約3000人によって構成される間接選挙であり、代表を国民が直接選挙で選出しているわけではない。
全人代では政府活動報告や憲法改正、それに法律制定や国家予算・決算の審議などが行われる。ただ審議とは名ばかりで、共産党政権にお墨付きを与えるだけのスタンプ機関にすぎない。それでも、竹のカーテンで仕切られた透明性に欠ける中国共産党政権の奥の院が垣間見える貴重な機会だ。
各紙は、初日の開幕式で発表された李強首相の政府活動報告をベースに社論を張った。
朝日は6日付社説で、「昨年の婚姻件数が前年から20%も減ったのは象徴的」として、長引く不動産不況など経済と社会に閉塞(へいそく)感が立ち込める中、李氏の報告で施策の筆頭に掲げた消費拡大策を批判した。
「昨年始めた消費財買い替えの支援を続け、予算も積み増すという」が、これでは一時的効果しか期待できないと言うのだ。確かに将来の消費を先食いするだけだから、末広がり的消費拡大に期待が持てるものではない。
さらに朝日は「不安を抱えて倹約に努める市民に対しては、社会保障制度の充実こそが王道だ」と指摘した。一人っ子政策が長く続いた中国は高齢社会に急速に突入し、年金や医療制度など整備が求められるものの、李氏の報告からはその変化は読み取れず、「前年比7・2%増で予算全体の伸びを上回る国防費とは対照的だ」と二の矢を放ち追及した。
中国の二枚舌に警鐘
読売も7日付社説で「経済の発展と社会の安定の両立という目標を達成するには、目先の景気刺激策だけでなく、医療や年金など社会保障制度を充実させることが不可欠ではないか」と指摘した。
なお読売は同社説で「活動報告では、中国外交の成果として『真の多国間主義を堅持し、地球規模の課題への対応と地域紛争の解決に役割を果たした』と主張した。中国主導の巨大経済圏構想『一帯一路』を通じ、対外協力を推進する方針も示した」とした上で「『米国第一』を掲げ、新興・途上国への経済援助の停止を表明したトランプ政権との違いを際立たせ、国際社会における求心力を高めようとする狙いは明らかだ」と中国の赤い野心を暴露した。
この点は産経の6日付主張が、深掘りし正義のヒーロー面した仮面を剥がすことで、ずばり中国の素顔をさらけ出そうとしている。
産経は同主張で「李強首相は政府活動報告でトランプ米政権を念頭に『一国主義と保護主義』に反対する国際協調路線を訴えた。だが、アジアで緊張を高めているのは中国である。自国を国際秩序の守護者のように見せかける偽善的な外交姿勢に惑わされてはならない」と中国の二枚舌に警鐘を鳴らした。
武器輸出で露に加勢
「『覇権主義と強権政治』に反対し、『世界の平和と発展に重要な貢献を果たした』などと自賛したが、台湾沖で軍事演習を重ね、東・南シナ海で力による一方的な現状変更を試みているのは中国自身ではないか」と言うのだ。
李氏は報告で、米国を念頭に「覇権主義・強権政治」に反対すると明記した。だが、中国は台湾を軍事的に威嚇し続けているし、ウクライナを侵略するロシアを非難しないばかりかロシア産の石油と天然ガスを購入してロシア財政をバックアップしている。それだけでなく、武器のパーツをロシアに輸出して侵略戦争の継続に手を貸している。
(池永達夫)