トップオピニオンメディアウォッチ産経が左派紙の原発風評被害指摘 曖昧な数値や表現で不安煽ると林氏

産経が左派紙の原発風評被害指摘 曖昧な数値や表現で不安煽ると林氏

メディアも風評加害

東日本大震災から14年が経(た)ち、各紙が企画記事を組んでいる。その中で目を引いたのは「風評『加害』メディアの責任は」と題する福島在住ジャーナリスト、林智裕氏の話だった(産経6日付文化面)。メディアについて論じる記事が他紙になかったからだ。

筆者も福島県に住む。だから「印象操作や不安の扇動などの風評『加害』が生まれ、そこに一部メディアが加担する動き」(林氏)に憤りを感じてきた。メディア報道を「第2の津波」と表現する県民も少なからずいた。その典型例として林氏は「AERA」(朝日新聞出版)の2011年3月28日号を挙げる。表紙に防護マスクの写真とともに「放射能がくる」との見出しを載せていた。「根拠を示さず放射線被曝(ひばく)で鼻血が出たことを示唆する漫画や記事も相次いだ」とも指摘する。

林氏は福島への差別や偏見の助長にメディアが加担する構図の具体例として、誤解を招くタイトル▽事実の中に根拠不明な情報を混ぜ込む▽別の意味を持つ数値や単位の混同――などを挙げ、その例として原発内のタンクに貯蔵された処理水の海洋放出を取り上げている。

中国利する“汚染水”

中国は処理水を「核汚染水」と呼び、外交カードに利用している。それで林氏は朝日と東京のX(旧ツイッター)公式アカウントで両紙の処理水に対する表現を調べた。すると事故直後は未処理の「汚染水」としていたが、17年以降に汚染水と処理水を混同する内容が急増。20年には「処理汚染水」「汚染処理水」などの造語が生まれた。「社会の不安をあおっただけでなく、中国政府が外交カードとして使うきっかけになった可能性もある」と林氏は述べている。

これに筆者流で以下、補足しておきたい。「鼻血」は漫画『美味しんぼ』を指すが、福島県相馬郡医師会がこのデマを暴いた。原発20㌔圏内の医療機関へのアンケート調査で(回答52機関)、被曝との因果関係が疑われる診断結果はなかった。11年度から13年度の住民延べ3万2千人余の健康診断でも、そんな事例はない(14年5月公表)。

原発を巡る虚偽報道では14年5月に朝日が「所員の9割が吉田所長の命令に違反して撤退した」とする「吉田調書誤報」が名高いが、12年10月15日付では横浜市で1㌔当たり129ベクレルの放射性ストロンチウムが検出されたとし、「原発周辺と同じレベルの汚染が首都圏まで及んでいたことになる」と報じ、毎日も「横浜で検出されたということは、東京、群馬、長野などでも出ていると考えた方がいい」との反原発派の話を載せ、不安を煽(あお)った。だが、文科省の調べではストロンチウムは原発事故とは無関係の核実験によるものだった。

こんなエピソードも紹介しておきたい。反原発派の“大物”に福島大学元副学長の清水修二氏がいる。震災翌年に福島県郡山市で開催された「原発いらない!福島県民大集会」の呼び掛け人代表で、集会では「反原発を掲げて共に前進しよう」とあいさつした。震災10年後の21年に毎日からインタビューを受けた。記者は原発への怒りの声を引き出そうとしたのだろうが、氏はこう話している。

県民の健康関心なし

「『被ばくによる健康被害がないことを心から望んでいる』と当たり前のことを言って、怒りを買った経験が何度もある。被害が大きいことを望んでいるかようなゆがんだ見方が、まだ健在だ」(同3月10日付福島県版)

清水氏の発言に怒ったのは筋金入りの反原発活動家たちで、県民の健康などつゆほども関心がない。被害をつくり出し、反原発に利用したいだけだ。それで健康被害がないのを「政府や東京電力にとって都合のいい主張と判断して否定する」と清水氏は言うのだ。

ことほどさように反原発派の言動は非科学的かつ闘争的である。左派紙も似たり寄ったり。林氏が指摘するメディアの「風評加害」に今後も警戒が必要だ。

(増 記代司)

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