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イランの弱体化とトルコの台頭を予見するイラン系新興メディア

覇権争いで中東激動

イスラエルの攻勢、シリアのアサド政権の崩壊を受けてこのところ、イランの弱体化ぶりが著しい。イラン系の新興メディア「イラン・インターナショナル」(本社・英イギリス)は、中東の非アラブの大国、イランとトルコについて、「中東混乱はトルコの利益となる可能性がある」と指摘した。

米シンクタンク外交問題評議会で中東研究の上級研究員を務めるアンリ・バルケイ氏はイラン・インターナショナルのポッドキャスト「アイ・フォー・イラン」で、「中東の戦略的状況は完全に変わった。現時点では中東で優位に立っている国はなく、覇権争奪戦となっている」と中東全体が大きな転機を迎えていると指摘する。

その最大の要因はイランの弱体化だ。

イスラム教シーア派のイランは「イスラエル破壊」を国是として掲げ、シリアに民兵を送り込み、南のイスラエルを牽制(けんせい)してきた。さらに、レバノンにシーア派組織ヒズボラを設立、軍事的、政治的にレバノンへの影響力を強化するとともに、イスラエルとは軍事的衝突を繰り返してきた。

ところが、一昨年のパレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスによるイスラエル襲撃以降、イランの域内での勢力図は一変している。

イスラエルのハマス攻撃を受けて、「レバノンでのイランの主な同盟組織ヒズボラ」(イラン・インターナショナル)は北からイスラエルを攻撃、ハマスに加勢したものの、「イスラエルの地上侵攻と空爆で大きな被害を受けた」。またイスラエルは、イランへの直接攻撃も実施し、ミサイル施設などを破壊しており、イランの防空能力の脆弱(ぜいじゃく)ぶりが露呈した。イランは、イスラエルに対してミサイル、ドローン攻撃を実施したものの、ほとんどが迎撃されており、イスラエルの空軍力の前になす術(すべ)がないというのが現状だ。

アサド政権崩壊影響

その上に同盟国シリアのアサド政権崩壊という大きな変化が起きた。

これについて、イラン・インターナショナルは「最も注目すべきは、イランの最古の同盟国シリアのアサド王朝が、トルコに近いスンニ派イスラム反政府勢力によって打倒され、トルコに新たな地域統治権が与えられたことだ」とトルコに地域での覇権拡大の好機が訪れていると指摘する。

第1次トランプ米政権で国防総省に勤務し、現在は、アラブ首長国連邦(UAE)のシンクタンク「トレンド・リサーチ・アンド・アドバイザリー」のシニア・マネージング・ディレクターのビラル・サーブ氏も先月、米紙ワシントン・タイムズとのインタビューで、「かつて出会ったことのない歴史的なチャンスを迎えている。1979年のイラン・イスラム革命から40年あまりたつが、これほど弱いイランを見たことがない」と指摘。「問題はこの好機をどう生かすかだ。圧力をかけ続けるべきか。答えはイエスだ」と訴えた。

PKKが「停戦」表明

さらにここでトルコにとって朗報が出てきた。80年代から独立国家樹立を目指して武装闘争を展開してきたトルコの反政府組織「クルド労働者党(PKK)」の指導者、アブドラ・オジャラン受刑者が2月27日、PKKの解散と武装闘争の放棄を呼び掛けたことだ。

オジャラン受刑者は、90年代に終身刑の判決を受けて、マルマラ海に浮かぶ島の刑務所に収容されている。

オジャラン氏の呼び掛け後、今月1日にPKKは声明で、「中東で新たな歴史的プロセスが始まった」と指摘、「攻撃されなければ武力は行使しない」と「停戦」を表明した。

PKKはトルコの隣国イラクに戦闘員を多く抱えており、今後、イラクのクルド人へのトルコの影響力が強まるとともに、イラクにシーア派民兵を配置するイランの影響力が弱くなるとバルケイ氏は予測する。

イランが後退、流動化する中東情勢の中で、イスラエルとトルコの存在感が増している。(本田隆文)

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