ターゲットを代える
週刊現代が3月末から隔週刊になる。同誌を発行する講談社はサイト上で「2025年3月31日発売号より、隔週刊をベースとする」と昨年末にリニューアルを予告していた。
新聞と同じように雑誌も購読部数を減らしている。部数減は広告収入の縮小につながり、経営を圧迫する。やがて週刊で出すことに耐え得なくなるのを見越しての処置だろう。発行回数が減る分をデジタルで補うようで、「紙とデジタル、それぞれの特性を生かした最適な形、プラットフォームで記事を制作・発信していく」として、当面は雑誌とネットの両構えでいくということだ。
それに伴い内容も変わった。顕著な変化は水着女性のグラビアが消えたこと。また「年金・血圧・終活」といった“高齢者相手”の記事ばかりだったのが、それらは影を潜め、国際情勢や社会問題を取り上げた硬派の企画が並ぶようになった。
これはつまりターゲットとなる読者層を代えたと読める。乱暴に言えば、週刊誌は団塊の世代が支えてきた印刷メディアであるが、当然、その読者層はこの先、細っていくのは目に見えている。かといって若い読者層はもはや紙媒体には目も向けない。とはいうもののネットメディアに完全に切り替えることにはまだ躊躇(ためら)いがある。それが「隔週刊」と「紙とデジタル」という中途半端な選択になったわけだ。
同社では既にウェブメディアの「現代ビジネス」が成功を収めている。「雑誌発行社運営のwebメディア『ビジネス・マネージャンル』でナンバーワンのトラフィック(ABC協会2024年7月~9月調査)を誇る」のだ。ここと週刊現代の「融合を図る」としているが、実質的には現代ビジネスに週刊現代が吸収されていくような格好になるのだろう。
米国分断に一役買う
さて、3月8日号では緊急大特集「SNSでゆがむ世界」を25㌻にわたって掲載した。約100㌻の4分の1を割くという力の入れようで読み応えがある。
七つの記事が前編後編に分けて掲載されている。前編は△SNS選挙に翻弄される政治家たちの悲哀△「日本人よ、いますぐ若者にSNSを禁じなさい」△ネットアンチ闘争記「私たちはこうして中傷と戦った」△「なぜSNSを使っているとふつうの人が『凶暴化』するのか?」の4編。後編が△アメリカの若者たちは、こんな情報ばかり見ています…最新SNSは「修羅の国」△マドンナが日本の地震を予言している!?「陰謀論」の拡散力がすごすぎて…△イーロン・マスクの頭のなかを覗いてみた―の3編だ。
タイトルを羅列したのは、読んだだけで中身があらかた想像できるからである。その中で「若者に禁じなさい」は社会心理学者ジョナサン・ハイト米ニューヨーク大学教授の警告だが、同時に米国の分断にSNSが一役買っていて、政治面では「SNS上では中道・中間派が消滅しました。もはやアメリカでは『合意』は不可能で、攻撃して相手を打ち負かすことによってしか、何かを実行することはできません」とまで言っているのは衝撃でもある。
「なぜ凶暴化するのか」は脳科学者の中野信子氏の分析。SNSには相手を中傷することで「快楽」を与える機能があるという。自分の「正義」を振りかざして、反対意見を批判し封じ込めようとする。「この快感に取り憑かれ支配された人々は、次から次へと標的を見つけて制裁を加え続ける――これが、現代社会に悪意ある言葉が蔓延する仕組みです」というもの。SNS利用者としては、この“ダークサイド”に堕(お)ちないようにしなければならない。
マスク氏見直す対談
今やホワイトハウスでもわがもの顔で振る舞っているイーロン・マスク氏。長官会議にジャケット、キャップで同席するのを見て、米政府の品格も落ちたものだ、世界はどの権威を頼ればいいのかと途方に暮れかけたが、意外にも彼を紹介する元ツイッター・ジャパン代表の笹本裕氏と立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏の対談はマスク氏を見直すきっかけにはなった。
「デタラメばかり書く」と言われる週刊誌が、リニューアルのタイミングでSNS警戒特集を組むというのも皮肉だ。印刷メディアとしての生き残りは見えてくるのか。(岩崎 哲)