世論調査質問に難癖
かつて鳩山邦夫法相が宮崎勤死刑囚(連続幼女殺害犯)の刑執行を命じたところ、朝日に「死に神」呼ばわりされた(2008年6月)。上川陽子法相がオウム真理教の元代表、松本智津夫(麻原彰晃)ら7人の死刑執行を命じた際には「根源の疑問解けぬまま」と難癖を付けられた(18年7月)。
宮崎死刑囚は東京・埼玉で4人の幼女を殺害し、遺骨を遺族に送り付けるなど残忍を極めた。麻原死刑囚は地下鉄サリン事件など13事件で死者29人、負傷者6000人以上の犠牲を出した狂気のテロ犯だ。死刑をもってしても遺族の痛みは消えない。それでも朝日は死刑制度に反対する。内閣府が同制度について5年ぶりに是非を問う世論調査を行ったが、これにも異議を唱えている。
内閣府調査によれば、制度容認派は前回調査(19年)より2・3ポイント多い83・1%で、過去20年間にわたり8割を超えた。制度廃止派は7・5ポイント多い16・5%(各紙22日付)。容認派の理由(複数回答)は、「被害者やその家族の気持ちがおさまらない」が最多で62・2%。「凶悪犯罪は命をもって償うべきだ」55・5%、「死刑を廃止すれば凶悪な犯罪が増える」53・4%。
一方、廃止派の理由(同)は、「裁判に誤りがあったとき、取り返しがつかない」が最多の71・0%で、前回より20ポイント以上増えた。読売は昨年10月に静岡県一家4人殺害事件で死刑判決が確定した袴田巌氏が再審無罪となったことなどが影響した可能性があるとしている。
一部弁護士の廃止論
これに対して朝日は「日本の死刑制度について考える懇話会」が昨年11月にまとめた提言を引っ張り出し「執行の実態や、なぜ長期間執行されない死刑囚がいるのか、刑務官に与える心理的負担など、情報公開が不十分で『国民が正しい意見を持つ前提が欠けている』」と、制度容認派がまるで「正しい意見」を持たない、それこそ無知扱いしている(22日付)。
また「(提言は)選択肢のあり方についても、『廃止』か『維持』ではなく、『廃止』か『やむを得ない』との2択は非対称で、積極的に賛成できない人でも『やむを得ない』という回答に誘導されかねないと指摘。世論の中にある死刑制度への迷いが十分反映されていないとした」と、制度容認8割への疑問を言い募る。
ネットで見ると、提言は多岐にわたって検討するとしており、記事は都合のいいところだけ切り取った感がする。もっとも懇話会は死刑制度反対を掲げる日弁連に事務局を置いており、恣意(しい)的に論議を進めている疑いが消せない。
ちなみに日弁連は16年、人権擁護大会で「死刑廃止宣言」を参加者の546人だけで採択した。これは全弁護士約3万7000人の1・4%にすぎず、被害者支援に取り組む弁護士からは「死刑制度反対は被害者への裏切りだ」との声が挙げられた。提言もそのきらいがある。
国家罪悪論が根底に
死刑制度の是非で「やむを得ない」と聞くのは何らやましいことではない。そもそも死刑制度は「やむを得ない」制度だからだ。死刑適用には「永山基準」(1983年、最高裁)があり、犯罪の動機や殺害方法、社会的影響、犯行後の情状、遺族の被害感情など9項目を総合的に考慮し、刑事責任が極めて重大で、「やむを得ない場合に死刑も許される」としている。「やむを得ない」は制度維持と同義語だ。
それにしても朝日が、どの口で「誘導質問」と言っているのか笑ってしまった。選択的夫婦別姓を巡る世論調査では旧姓の通称使用拡大については何ら質問せず、「賛成」か「反対」の2択で回答を求め(17日付)、それこそ通称使用派を「賛成」に誘導している。それに対する批判があるのに耳を貸さない。二枚舌を使っているのだ。とまれ朝日や左翼勢力が死刑制度に反対するのは、マルクス流の国家悪論つまり国家を「死に神」扱いしているからである。
(増 記代司)