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繰り返される冤罪事件 エコノミストが「人質司法」の問題点を指摘

長期勾留し自白強要

近年、司法の現場において冤罪(えんざい)となるケースが目立つ。近いところでは袴田事件がある。昭和41(1966)年に静岡県清水市(当時)で起きた強盗殺人・放火事件で犯人とされた袴田巌氏が死刑判決を受けたが、その後の再審で昨年10月9日に無罪が確定した事件である。もっとも冤罪となる事件は個人のみならず、企業活動を行う経営者にも及ぶ。

週刊エコノミスト(2月18日号)は、「あなたを狙う『人質司法』」と題して、経済界で起こる繰り返される冤罪事件を取り上げた。そもそも「人質司法」とは、検察などの捜査機関が容疑者や被告を長期間勾留し、自白を強要して有罪判決を勝ち取ろうとする手法のこと。時に威圧的な言動や脅しを使い、密室の空間で取り調べを行う様子は、テレビドラマでも見ることができるが、それに近いことが行われているというのである。

同号ではまず、ここ数十年に起こった長期に身柄を拘束された主な経済事件を列挙する。2011年、オリンパス事件で金融商品取引法違反で逮捕されたコンサルタントの横尾宣政氏の勾留期間は966日、20年、中国へ噴霧乾燥機を中国へ輸出し、外資法違反で起訴された後に無罪となった大川原化工機社長の大川原正明氏は332日、09年、郵便不正事件を巡る証拠改竄(かいざん)、隠蔽(いんぺい)で逮捕された当時、厚生労働省局長の村木厚子氏の勾留期間は164日などだ。

この中で大川原氏は、取り調べの時の様子を同誌の中でこう述懐している。「公安部は『(海外の)生物化学兵器を作るような会社に御社の装置が流れている』と言って、家宅捜索に入った。…その時から、任意の取り調べが、四十数人の社員を対象に、計290回以上行われた。向こうは、最初からどんな方法でもいいから当社を検挙すると決めていた。…私の場合も、逮捕されるまでの間の任意聴取の期間が1年半あった。その間、1回当たり4時間くらいの取り調べが40回以上あった」と語る。捜査側は最初から「罪ありき」で攻めてくるという。

検察が証拠改竄・隠蔽

一方、村木厚子氏が冤罪となった郵便不正事件とは、厚生労働省の職員が障害者団体向けの郵便割引制度を使って、制度の適用を認める証明書を偽造したものだが、それを上司であった村木氏の指示によるとされ、さらに検察の証拠改竄・隠蔽によって長期にわたって勾留を強いられたというのである。この事件の経緯は後に、同氏の回想録『私は負けない』(中央公論社)に詳細に書かれているが、問題なのは長期にわたる身柄拘束もさることながら、正義・公正を扱う検察が、架空の供述を作り上げて事を進めようとしたことである。

その後、最高検察庁がこの事件の捜査や基礎を総括「いわゆる厚生労働省元局長無罪事件における操作・公判活動の問題点等について」を公表しているが、同誌は「なぜ客観証拠もないまま村木氏関与を認めるような関係者調書を大量につくることができたのか、なぜそれら調書が一定のストーリーで固められていたのに裁判で証明することができなかったのかなどが検討された形跡はない」(指宿信・成城大学法学部教授)と指摘、さらに「見立てにこだわり、矛盾した証拠や供述を無視したり録取しようとしなかった捜査現場の暴走を検察組織がなぜ止められなかったのか、解明を試みた様子もうかがえない」(同)と司法の透明性、客観性の構築に疑問を投げ掛ける。

国民も意識改革必要

ところで、こうした長期にわたって拘束される「人質司法」がなぜ続くのか。この点について、エコノミストは次のように説明する。「検察の基本姿勢が変わっていない。制度を変えてもそこが変わらなければ変わらない。そして国民も、治安第一主義の面が強い。『1件くらい冤罪があっても、10人は間違いなく捕まえてほしい』という治安重視の思想が変わらない限り、検察の姿勢も変わらない」(弘中惇一郎弁護士)という。「“お上”のいうことは間違いない。とにかく平穏無事であればいい」という安易な国民意識。何が正しいことなのか、自ら真実を見極める意識と姿勢を国民が持つことが冤罪を無くす道なのだと教えられる。(湯朝 肇)

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