連立交渉すべて決裂
アルプスの小国オーストリアの政界は一寸先は闇だ。昨年9月29日に実施されたオーストリア国民議会選挙後、2月12日で136日目を迎えたが、新政権は依然誕生していない。これまで3回の連立交渉が行われたが、ことごとく決裂した。12日、極右政党・自由党と中道右派・国民党の間の連立交渉が暗礁に乗り上げたばかりだ。
国民議会選挙の結果、自由党が約28・8%の得票率で連立レベルで初めて第1党に躍進。与党の国民党は26・3%、社会民主党21・1%、リベラル政党・ネオス9・2%、そして緑の党8・1%だった。
総選挙後、ファン・デア・ベレン大統領は昨年11月8日、5党の議会政党の党首と個別に会談後、第2党の国民党のネハンマー党首(首相)に連立交渉を要請。それを受けて、国民党は社民党、ネオスとの3党連立政権を目指して交渉を開始した。
新年に入った直後の1月3日、ネオスが突然、連立交渉から離脱を表明。その結果、国民党と社民党2党の連立政権交渉となった。そして翌日の4日に入ると、今度は国民党のネハンマー党首が社民党との連立交渉を断念した。ネハンマー党首は責任を取って国民党党首と首相ポストを辞任した。
ファン・デア・ベレン大統領は6日、自由党のキックル党首に連立交渉を要請。国民党はストッカー党首代行を立て、交渉に臨んだが、党内外から批判の声が出た。同時に、キックル政権の誕生が現実味を帯びてきたことから、国内外で「キックル政権反対」の声が高まり、ウィーンの連邦首相府前の広場では抗議デモが行われた。
そして2月12日を迎えた。キックル党首とストッカー党首代行はファン・デア・ベレン大統領と個別に会談した後、両党は連立交渉が暗礁に乗り上げたことを報告した。交渉決裂の最大の原因は、財務相と内相の閣僚の分配問題で双方が譲らなかったことだ。特に、キックル党首が内相のポストは絶対に譲れないと宣言したことから、ストッカー党首代行は交渉を打ち切らざるを得なくなったのだ。
首相就任の好機逃す
オーストリアの大衆紙「OE24」の発行人ヴォルフガング・フェルナー氏は13日、社説で「キックル党首は連邦首相に就任できる歴史的なチャンスを逃した。最大の理由は交渉で妥協せず、譲歩を拒んだからだ。妥協できない政治家は首相の資格はない」と分析している。
また、オーストリア代表紙「プレッセ」は「キックル党首のジレンマ」というタイトルで「彼は選挙に勝つ才能はあるが、統治する能力はまだない」と指摘し、「キックルは昨日の政敵は明日の連立政権のパートナーとなることを知らなければならない」と述べている。
一方、日刊紙「スタンダード」は「マキシマリズムの呪い、ポピュリストの典型的なジレンマ」というタイトルで、キックル党首の妥協なき政治の世界を分析している。「キックル党首は自由党の支持者への約束を完全に実現するために、連立交渉の相手に対して妥協を拒否し、最大限を要求した」と指摘し、妥協・譲歩を忘れ、マキシマリズムの呪いに陥ったポピュリストの心理を解説している。
3党連立交渉再開か
ファン・デア・ベレン大統領は12日、国民に向けて短いメッセージを述べ、「わが国が危機に陥ったわけではないから、不安を感じる必要はない」と語った後、今後の展望として、①繰り上げ総選挙②少数派政権③専門家政権④現議会での政党間で連立交渉を再開する―等の四つのシナリオを挙げている。
現地のメディアは「国民党と社民党、そしてネオスの3党の連立交渉が再度行われるのではないか」と臆測している。プレッセ紙は「ストッカー氏が次期首相か」と報じている。繰り上げ総選挙の実施については自由党を除き、他の政党はいずれも消極的だ。自由党が得票率を増やしたとしても状況は変わらない。「時間と資金の無駄使い」といった声が支配的だ。
(小川 敏)